伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

châle(ショール)とchalet(シャレー)

『ヌレエフ』P.205:
彼は振付家のマッシーニから買い取ったメランコリックな小島に舞い戻り、シャレー風の別荘にこもっていました。この島はかつてディアギレフが所有していました」
Meyer-Stabley原本:
Drapé dans des châles, il rejoignait l'îlot mélancolique qu'il avait racheté au chorégraphe Massine, qui le tenait du grand Diaghilev. »
Telperion訳:
彼はショールをまとい、振付家マシーンから買い取った陰鬱な小島に戻るのでした。マシーンは島を偉大なディアギレフから受け継ぎました」

「シャレー風の別荘」でいうシャレーのスペルはchalet。châleは「ショール」。

draperは「布で覆う」「ひだを寄せる」などの意味があり、「こもる」という意味はなさそう。ここでは過去分詞drapéが使われていることから、draperの対象はヌレエフなので、ヌレエフがまとっていることになる。draperを代名動詞として使った"se danser dans ~"は「~を身にまとう」と仏和辞書にあるので、まとうものを前置詞dansの後に置くのは普通の用法と思われる。

リ・ガリの家の相容れない描写2つ

ここで触れられている島はヌレエフの別荘があるリ・ガリであることは、訳本のこの部分を読めば分かる。この島は訳本P.193でも触れられているが、そこには「岩でできた大邸宅」と書かれている。「岩でできた大邸宅」と「シャレー風の別荘」は両立しそうにないということは、訳本出版前に誰かに気づいてほしかった。

「岩でできた大邸宅」も正しい訳ではない。島の描写が家の描写にされたせいでそうなったということは、「三日月クラシック」の記事「『光と影』原文比較2」より「P.193 カプリ島付近の~」の項に書いてある。

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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