伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

楽屋で鉢合わせしたヌレエフとデヴィッド・ブレア

『ヌレエフ』P.134:
その芝居があまりに素晴らしかったので、デヴィッド・ブレアは控え室で彼が大胆に着替る(原文ママ)のを見て興醒めした。
Meyer-Stabley原本:
Son « déguisement » est si convaincant qu'un des danseurs, David Blair, s'indigne lorsqu'en toute innocence il entreprend de se changer dans sa loge...
Telperion訳:
彼の「変装」はあまりに説得力があったので、ダンサーの1人デヴィッド・ブレアは、ヌレエフが何も知らずに自分の楽屋で着替えようとしたとき憤慨した…

ヌレエフがまだフォンテーンと組む前、素性を隠してロイヤル・バレエを訪れたときのこと。

  • "se indigner"は「憤慨する」。「興醒めする」とは違った意味に見える。
  • "en toute innocence"は「無邪気に、悪気なしに」。「大胆に」とは違った意味に見える。

原文からは、ヌレエフがいかにも無名な若手という態度だったので、部屋を間違えたときブレアにちゅうちょなく怒られたという情景が見えてくる。ブレアが怒ったのは、"sa loge"(彼の楽屋)がブレアの楽屋だったからだろう。ブレアはロイヤル・バレエのプリンシパルなので、特別な部屋を使っても当然の身分。

エピソードの出典

このエピソードは伝記『Nureyev: His Life』(Diane Solway著)でも取り上げられており(ペーパーバックP.205)、出典は『Fonteyn & Nureyev: The Great Years』(Keith Money著)。この本はMeyer-Stabley原本の参考文献にも載っている。

もっとも、Solway本ではブレアがヌレエフに"You're that Russian fellow aren't you?"(君はあのロシア人だな?)と詰め寄ったとあるので、ヌレエフの素性はばれている。

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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