「整理された」が「金色の」に

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』P.194:
パリのアパルトマンには金色のものがうず高く積み上げられていた。
Telperion訳:
パリのアパルトマンはまさに整然とした寄せ集めであった。
原本『Noureev』:
L'appartement parisien a tout du fatras ordonné.

ヌレエフの住居の説明の一部。

原文のどこにもない「金色の」

この文のキーワードであり、解釈が難しいのは"fatras ordonné"。2つの単語はこういうもの。

  • fatrasは名詞で、意味は「雑然とした寄せ集め、がらくたの山」
  • ordonnéは形容詞で、意味は「整理された、きちんとした」

2つの単語の相性は水と油。組み合わせた直訳「整理された寄せ集めの山(fatras ordonné)」にはこちらが面喰らう。

この奇妙な表現を原著者メイエ=スタブレ(Meyer-Stabley)が使ったのは、ヌレエフの収集品の一貫した好みと過剰な数を表すためでないかと思う。私にとって、引用の直後に書かれている「互いに覆いかぶさるように重ねてかけた一〇数枚の絵画で一面埋め尽くされている壁」(同じページ)はその典型例。

フランス語で「金色の」という意味の言葉としてはd'orやdoréがあるが、どちらもordonnéと見間違えるほど似たスペルには見えない。でも、フランス語で金という意味のorがordonnéの中に入っているのは、新倉真由美訳で「金色の」という言葉が飛び出したことと関係するのかも知れない。

本当に積み上げられていたとは限らない

"avoir tout de ~"は「まったく~のようだ」というイディオム。第3章でも「キーロフ・バレエはさながら難攻不落の砦だった」という文で使われている(「三日月クラシック」の記事より「P.43 一八八六年の設立以来~」の項を参照)。

キーロフ・バレエが実際には砦でないのと同様、「寄せ集めの山」が文字通りの山だとは限らない。現に絵はきちんと壁にかけられている。

主な更新

2014/1/25
語順変更を中心に書き換え
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