バッキンガム宮殿に多分State Apartmentsはない

「なぜ新倉本ではステート・ルームが住居呼ばわりされるんだ」という疑問から、フランス語でのappartementの意味と用例にまで発展した前回の記事。そして私が「Meyer-Stableyがステート・ルームをこう呼ぶのは不適切だろう」と考えるに至ったのは、フランス語でそう呼ばれている現状がある表現appartementsではなく、英語の呼び名"State Apartments"でした。前の記事にも書きましたが、もう一度引用します。

『バッキンガム』P.49:
住居は宮殿の南側と西側を占め、
Meyer-Stabley原本:
Ces appartements (State Apartments) occupent les côtés sud et ouest du palais ;

フランス語の原文中に英語の"State Apartments"。イギリスの宮殿の部屋の説明で英語の呼び名が出るのだから、これを読めば「現地では"State Apartments"と呼ばれているのだな」と解釈するのが普通でしょう。

ところが、私が「ステート・ルーム」と連呼しているとおり、バッキンガム宮殿のあの豪華な部屋は現地では"the State Rooms"と呼ばれます。バッキンガム宮殿の紹介ページはインターネットで山ほど見ることができますが、圧倒的多数で"State Rooms"という語句が使われます。その中に英国王室公式サイト英国王室コレクションサイトが入っている時点で、"State Rooms"と"State Apartments"のどちらが一般な名前なのかは明らかです。

他の宮殿なら一般的なState Apartments

"state apartments"を検索するとたくさん出くわすのは、ウィンザー城のそれでした。ケンジントン宮殿セント・ジェームズ宮殿にも、そう呼ばれる部屋があるようです。バッキンガム宮殿だけが"State Rooms"なのは不思議です。多分apartmentは豪華なイメージがある言葉だし、バッキンガム宮殿は他の宮殿より豪華そうなのに。でも現状は現状。客間一式をappartemente(集合住宅内の住居を指すフランス語)と呼ぶよりは、apartmentと呼ぶのが似合う部屋をroomと呼ぶほうが、私には受け入れやすいことです。

Meyer-Stableyは宮殿案内を書くときに何らかの資料を読んだでしょうが、ほとんどの資料であそこは"State Rooms"と書かれているはず。ああいう部屋を"State Apartments"と呼ぶ例がMeyer-Stableyの頭にあり、バッキンガム宮殿は違うということをつい失念したのかも知れません。

手を広げ過ぎた気味がある原本

いずれにせよ、ステート・ルームはバッキンガム宮殿内部の最大の名所。およそ一般的でない呼び名を使うと、「この本を受け入れていいのだろうか」という疑念を呼びやすいでしょう。一見間違いだと分かりにくいメンデルスゾーンフレッド・ナットビームの件と違い、観光ガイドブックを読んだだけの人にも突っ込まれやすいのが、"State Apartments"のまずいところです。

私は英国王室についての知識を求めて原本『La Vie quotidienne à Buckingham Palace sous Elisabeth II』を読んでいるわけではないので、この本に間違いが多かったとしても、本気で失望したり怒ったりはしません。でも、資料を読む暇がないなら、22.5 x 3 x 14 cm (出典は英アマゾン)もする長大な本にしなければいいのにとは思います。ステート・ルームはバッキンガム宮殿を語る上で外せませんが、メンデルスゾーンやナットビームの件は、書かなくてもよいことをわざわざ書いて墓穴を掘った形です。

関連記事

コメント

非公開コメント