訪問者の進路を決める入口

『バッキンガム』P.41:
バッキンガム宮殿の南側にある正面入口には入口と出口の交差鍵が置いてある。
Meyer-Stabley原本:
Le portail sud de Buckingham Palace demeure le carrefour-clef des entrées et des sorties.
Telperion訳:
バッキンガム宮殿の南の大きな玄関は、出入りの分岐点の要であり続けている。

単語の解釈

carrefour-clef

2つの単語の合成語。

carrefour
基本的な意味は「交差点、十字路」。そこから「選択を迫られる場所、多様なものが交流する場所」のような意味が派生する。
clef
基本的な意味は「鍵」。名詞の後に来る場合、「鍵となる、主要な」。名詞とclefの間にハイフンはあってもなくてもよい。

新倉真由美の「交差鍵」は、苦肉の造語としては理解できる。しかしclefの意味は補助的であり、carrefour-clefの主要な名詞はcarrefour。それに「交差鍵」というものがこの世に存在するかはきわめて疑わしい。

demeurer

原文の述語となる動詞。

  • 場所を示す語句の前にある場合、「住む、とどまる」。場所を示す語句の例は、"à Paris(パリに)"、"chez des amis(友人の家に)"など。例の出典は『プログレッシブ仏和辞典第2版』のdemeurerの項。
  • 状態を示す語句の前にある場合、「~であり続ける」。状態を示す語句の例は、silencieux(沈黙した)、"dans son erreur(誤っている)"など。例の出典は上と同じ。

原文では述語demeureの直後に名詞"le carrefour-clef"が直接続いている。上に挙げた例を見る限り、場所を示す前置詞がない名詞単体が場所を示すことはなさそう。だからここでの"le carrefour-clef"は状態を示す語句であり、述語の意味は「~であり続ける」のほうだろう。つまり、南の玄関そのものがcarrefour-clefでもある。

新倉真由美は述語の意味を「~にある」だと解釈したらしい。でも、その場合は主語は「交差鍵」で、述語の後に宮殿入口が来るはず。「交差鍵」の前に前置詞がないのを無視したとしても、「宮殿入口は交差鍵にとどまる」が「交差鍵が宮殿入口にある」と同じ意味だという気はしない。

文脈を踏まえた解釈

この原文だけ読んで妥当な解釈を思いつくのは難しいので、手掛かりを得るために本で周辺も読んでみる。

  1. この文は段落の先頭にある。その次の文は「宮殿の正面から出られる者と脇の宮殿の勝手口から出なければならない者は厳格に区別される」という意味。
  2. その次の段落でも、使用可能な入口が利用者の立場から決まるということが字数をかけて書かれる。そのうち2か所は前に別の記事で取り上げた。

こういった内容の文の前置きだということを念頭に置くと、南玄関の役目であるcarrefour-clefとは、通行人が行くべき道を振り分ける主な場所だと見当が付く。carrefourという言葉が使われる理由としては、次のことが考えられる。

  1. 身分や用件にかかわらず、宮殿に行く人の多くが通る
  2. この後どの入口から宮殿に入るかをそこの職員が選ぶ

おまけ - 南の大きな玄関

私の推測では、南のportail(大がかりな造りの戸口または門)とは"the Ambassadors' Entrance"(大使の玄関)。理由は次のとおり。

  • 新倉本の見取り図には方角が書いていないが、文中の記述と照合すると、上が南だと分かる。P.37の1階見取り図で南にあるのが「大使の入口」。
  • 英国王室コレクションサイトでは、"the Ambassadors' Entrance"を"the main entrance to the Palace"(宮殿の主要入口)と呼んでいる。

普通バッキンガム宮殿の正面とされるのは、ザ・マルの終端と広場に面した北東部分。しかし、そこからの入口(新倉本の見取り図では「主要入口」)より、大使の玄関のほうが実用的なのだろう。

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