「威風堂々」が似合う王座の間

『バッキンガム』P.51:
王座の間の華麗さと物々しさにも注目してみよう。そこでは一九〇一年に照明器具として取り付けられたクリスタル製の七つのシャンデリアが素晴らしい輝きを放っている。
Meyer-Stabley原本:
Restons dans une note Pomp and Circumstance avec la salle du Trône. Sa splendeur éclate grâce à sept lustres en cristal taillé, adaptés pour l'éclairage électrique en 1901.
Telperion訳:
王座の間とともにある「威風堂々」の調べの中でとどまろう。その輝かしさがほとばしるのも、1901年に電気照明用に調整された、7台のカットクリスタルのシャンデリアのおかげだ。

Pomp and Circumstanceは曲名

文中のPomp and Circumstanceは英語であり、その和訳として「華麗さと物々しさ」は上出来とすら言える。circumstanceにはもっと一般的な訳語「環境」などもあったのだから。しかし、"Pomp and Circumstance"は単語を日本語に置き換えるだけでは不十分ではないかと思わせる要素がいろいろある。

  • フランス語の文でわざわざ英語を使っている。
  • 大文字を使っている。単なる部屋の雰囲気なら、小文字で書くはず。
  • これはnoteの説明。仏和辞書でnoteを引くと、「メモ、文書、評点、音符、音色」など多くの意味があり、どれにすべきか迷う。

インターネットでの検索がない時代だったら、私にPomp and Circumstanceの意味を見つけ出せたか心もとない。しかし現在は、google、アマゾン、wikipediaなどのどれかで検索するだけで、簡単に答えが手に入る。『バッキンガム』が出版された2011年でもそれは同じ。

Pomp and Circumstanceと呼ばれるもののうち最も名高く、noteという説明に合うのは、イギリスの作曲家エルガーが作った「威風堂々」。曲の名前は知らなくても耳にしたことがある人は多いと思う。その有名な部分にイギリスでは歌詞が付けられ、第2の国歌のように扱われているとか。

調べの中でとどまる

「威風堂々」のことであるnoteは「調べ、音色」といった意味になるので、原文冒頭の"Restons dans une note"は「調べの中にとどまろう」となる。実際に王座の間で「威風堂々」が流れているわけではないが、英国ゆかりのその音楽が今にも聞こえてきそうな荘厳な雰囲気をMeyer-Stableyが「威風堂々」の調べと呼ぶのは、とてもよく理解できる。

新倉真由美は原文の冒頭"Restons dans une note"を「注目してみよう」としている。多分noteを「メモ」と解釈し、それに合わせて文を創作したのだろう。しかしnoteの意味として「注目」を採用できるか疑わしいし、動詞resterの意味は「残る、とどまる」。Pomp and Circumstanceの意味を調べないでおくとしても、「~の中にとどまろう」に合うnoteの意味は「音色、調子」だと思う。

輝きは王座の間のもの

第2文の最初の"Sa splendeur éclate grâce à sept lustres"は「それの輝きは7つのシャンデリアのおかげで炸裂する」。

  1. splendeurにかかる所有代名詞sa(それの)は単数のものに対して使う。
  2. シャンデリアは複数なので、splendeurはシャンデリアのものではない。もしシャンデリアのものなら、所有代名詞はsaでなくleurになるはず。
  3. 前の文とのつながりから、saは"la salle du Trône"(王座の間)を指すと考えられる。noteという選択肢もあるが、部屋の説明なのだから王座の間だろう。

シャンデリアは1901年より前からあった

シャンデリアは1901年に"adaptés pour l'éclairage électrique"されたとある。ここでは前置詞pour(~のために)が使われているが、動詞adapterは"adapter A à B"という使い方をされることが多い。最も一般的な意味は「AをBに適合させる、AをBにアレンジする」。家電やパソコン絡みでよくある製品「アダプター」の用途は、2つの機器をつないで互いにやりとりできるようにすることだというのを思い起こすと、adapterのイメージがわくと思う。

シャンデリアが電気照明(éclairage électrique)のために適合されたとは、シャンデリアが電気で灯るように作り変えられたということだろう。ろうそくの灯りで輝いていた昔から、シャンデリアは王座の間にあったのだと思う。

『プログレッシブ仏和辞典第2版』には"adapter A à B"の意味として「AをBに取り付ける」という意味もあるので、新倉真由美の解釈がありえないとは言わない。しかしラルース仏語辞典に「取り付ける」の意味は載っていなかった。調整・適合を伴わない取り付けという意味がadapterにあるかは疑問。

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