青の客間の価値を上げるフランス産テーブル

『バッキンガム宮殿の日常生活』P.49:
次は偉大な指揮官たちのテーブルのある青の客間、緑と金色の陶器のトレイは、古(いにしえ)の偉人たちをかたどったメダルより豪華だ。
Telperion訳:
しかし一番は結局のところ、青の客間だ。そこには「偉大な指揮官たちのテーブル」が隠れている。その緑色と金色の磁器のトレーは、太古の偉人を描いたメダルのおかげで豪華になっている。
原本『Buckingham Palace au temps d'Elisabeth II』:
Mais la vedette revient au salon Bleu, qui recèle la « table des Grands Capitaines » : son plateau de porcelaine vert et or s'enrichit de médaillons figurant les grands hommes de l'Antiquité.

宮殿2階の南側と西側にある儀礼用の部屋の説明から。これらの部屋はステート・ルームという総称で知られているので、ここではそう呼ぶ。

青の客間の扱い

最初の"Mais la vedette revient au salon Bleu"は、「しかしスターは青の客間に~する」という形をしている。述語で使われている"revenir à ~"にはさまざまな意味があるので、どの意味が最も適切かを推定するには、前後の文脈を考える必要がある。

文の前
ステート・ルームの説明が始まったばかり。直前の文は、新倉真由美訳では次のような形になっている。分かりやすさのために部屋の描写は省略した。
最も特徴的なのは、見事な階段、(中略)緑の客間、舞踏会の間、王座の間、(中略)絵画の間、(中略)白の客間、音楽の間である。
つまり、ステート・ルームの中でも代表的な部屋を列挙している。
文の後
「偉大な指揮官たちのテーブル」の来歴を説明している。
文の冒頭
文が「しかし」(mais)で始まるからには、前の文と反対の意味を持つはず。

これらの手掛かりを頭に入れてから、改めて仏和辞書を引く。"revenir à ~(名詞)"の意味として載っているのは、「~に帰る」「~に復帰する」「~のものになる」「結局は~になる」など。この中で上の文脈に一番合う意味は、「結局は~になる」。「しかしスターは結局は青の客間になる」、つまり青の客間が数あるステート・ルームの中でも図抜けているという文なら、「これこれの部屋が特徴的である」「青の客間のテーブルは逸品だ」の間に自然に入ることができる。

一方、新倉真由美はmaisも"la vedette"(スター)も"revient à ~"も無視し、"salon Bleu"(青の客間)だけを使って文章を創作した。revenirにさまざまな意味があるといっても、「次は~である」と訳せそうな意味は見当たらない。それどころか新倉真由美の文では、青の客間がその前に列挙された部屋よりも一段劣るようにも読める。

テーブルの見栄えをよくするメダル

コロンの後には「偉大な指揮官たちのテーブル」を描写する文がある。次のように分解できる。

son plateau de porcelaine vert et or
この文の主語。緑と金の磁器(陶器ではない)のトレー。
s'enrichit
この文の述語。"s'enrichir de ~"(~によって豊かになる)という言い回しを使っている。
de médaillons figurant les grands hommes de l'Antiquité
述語につながる"de ~"の部分。歴史上の偉人を表すメダル。

つまり、トレーがメダルのおかげで豪華になったということ。トレーとメダルを比較しているのではない。

おまけ - テーブルについて

英国王室コレクションサイトに、話題になったテーブルの説明ページがある。もとはフランスのテーブルだったので、« table des Grands Capitaines »は原著者メイエ=スタブレ(Meyer-Stabley)独自の仏語訳ではなく、本来の名前。メイエ=スタブレが青の客間を一番扱いするのは、このテーブルのせいで自国への誇りをかきたてられたからだろうと想像できる。

上で「トレー」と呼んだ部分は、本当は天板と呼ぶべきかも知れない。でも実物がトレー状の形だし、「天板」はラルース仏語辞典で見てもメジャーな用語でなさそうなので(リンク先で先頭に太字の"Mobilier et décoration"がある項がそれ)、私は「トレー」と呼んでいる。

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