大理石の広間に大理石がない?

『バッキンガム』P.44:
大広間と大階段から先には大理石は使われていない。
Meyer-Stabley原本:
Puis, dès le Grand Hall et le Grand Escalier, vous vous apercevez qu'on n'a pas lésiné sur le marbre.
Telperion訳:
次に、大広間と大階段から始まり、大理石が惜しげもなく使われたことに気づく。

文中で使われている動詞lésinerは「出し惜しみする、けちる」。原文ではlésinerが否定形で直説法複合過去の時制(n'a pas lésiné)なので、「出し惜しみしなかった、けちらなかった」となる。

重要な単語を仏和辞書できちんと調べていれば、起こらなかった間違いだろう。しかし、Meyer-Stableyの説明順序を宮殿見取り図と照合することも、この間違いを防ぐ助けになったはず。

移動ルートへの目配り

引用した文がある第1章の原題は"Suivez le guide"(ガイドに付いてきてください)。Meyer-Stableyはガイドが観光客を案内するように、無理なく移動しながら宮殿のいろいろな場所を説明している。大理石がある場所に集中して、その様子を見てみる。

  1. 宮殿1階に入ったばかりのところでこの文を書く。
  2. この文に続いて、建築家ジョン・ナッシュが宮殿の4か所のために大理石をイタリアから取り寄せたと書く。その4か所とは、ここでの新倉真由美の訳語を借りれば、大階段、大広間、大理石の広間、護衛室。
  3. その後、大広間と大階段の外観について説明してから、1階の別の部屋に移動する。そのとき大理石の広間を通過していることが、「大理石の広間を後にして」(新倉訳)という文から分かる。

新倉本P.37-39にある宮殿見取り図と見比べると、Meyer-Stableyは次のルートをたどっていると分かる。

  1. 大玄関から1階に足を踏み入れる。
  2. 大玄関につながる大広間に入る。
  3. 玄関から見て左側から大広間を抜け、大階段に着く。
  4. 大階段を上らず、大理石の広間を通りながら、そこに隣接するいくつかの部屋を順に見る。
  5. 2階にある護衛室(見取り図では「衛兵室」)には行かなかった。

このルートを頭に入れると、大理石が豪華な場所の起点として、Meyer-Stableyが大広間と大階段を挙げたのは自然。そして、Meyer-Stableyのルートに沿うと、原文を見ずとも新倉真由美の説明はおかしい。

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