奇妙なのはレセプションで主役が気づかれないこと

『ヌレエフ』P.168:
ルドルフは化粧を落として一人で現れ、喧騒を興味深く眺めていましたが、彼に気づく人はいませんでした。
Telperion訳:
ルドルフはメイクを落として一人で来て、不思議なことに大騒ぎの中で誰も彼に気づかなかった。
原本『Noureev』:
Rudolf était arrivé seul, démaquillé, et curieusement dans le tohu-bohu personne ne l'avait remarqué.

ヌレエフが公演後のレセプションに来たときのこと。語り手のMario Bois(マリオ・ボワ?)が1993年に著した『Rudolf Noureev』が原本の参考文献一覧にあるので、この本からの引用と考えられる。

新倉真由美による文の分け方

新倉真由美は恐らく、上の文を次の3つに分けている。

  • Rudolf était arrivé seul, démaquillé, (ルドルフは一人でメイクを落として到着した)
  • et curieusement dans le tohu-bohu (そして奇妙にも大騒ぎの中で)
  • personne ne l'avait remarqué (誰も彼に気づかなかった)

これを訳本と照合すると、新倉真由美が「(ルドルフは)眺めていた」という文を新たに創作し、2番目の部分に追加したことが分かる。実際には2番目の部分は主語も述語もない部分的な語句なので、前後どちらかの文を修飾するはず。

本来の文の分け方

文の冒頭から文末のピリオドまでの一区切りの中にいくつかの文が同格に並ぶ場合、それらの文は一般に接続詞またはコンマで結ばれる。上の原文にその原則を当てはめると、次の2つの文を接続詞et(そして)が結んでいると推測できる。

  • Rudolf était arrivé seul, démaquillé (ルドルフは一人でメイクを落として到着した)
  • curieusement dans le tohu-bohu personne ne l'avait remarqué (奇妙にも大騒ぎの中で誰も彼に気づかなかった)

文中のdémaquillé(メークを落として)は明らかにヌレエフを指すので、この単語は1番目の文につながっている。一方、curieusement(奇妙に)の後は接続詞もコンマもなく文末まで続いているので、この単語は2番目の文につながっているのだろう。

何が奇妙なのか

2番目の文にcurieusementが付いている理由は、「レセプションの主役であるルドルフに誰も気づかないなんて、とても奇妙だ」とBoisが考えているためだと思う。

新倉真由美の唱える「喧騒を興味深く眺めていた」は、私から見ると少しおかしなところがある。このエピソードは1969年のことで、ヌレエフは大勢がざわめくレセプションに慣れっこだったはず。興味深く眺めたくなる要素がそのレセプションにあったか疑問。

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