ヒーローでも卑劣でもないタランティーノ

『密なる時』P.62:
粗暴で偏狭で卑劣なヒーロー、タランティーノ(注9)にも似ていた。
プティ原本:
et tels les héros sordides de Tarantino, brutal et borné.
Telperion訳:
タランティーノの下劣な主人公たちのように、粗暴で偏狭だった。

ヌレエフを「モリエールの守銭奴のように倹約家、ユノのように忠実」などとたとえ続けた文の最後を締めくくる比喩。

タランティーノは新倉真由美の訳注にあるように映画監督。他の比喩では架空の人物や抽象的な人物を取り上げているプティが、ここに限ってタランティーノという生存する人物を取り上げ、しかも性格にケチをつけるのには違和感を覚える。正しくは「ヒーロー、タランティーノ」でなく「タランティーノのヒーロー」、つまり映画の登場人物なのだろうと、原文を知らなくても推察した読者は多いと思う。わざわざ私が原文を出して裏付けるまでもないような気もするが、一応明記しておく。

  • 原文では"de Tarantino"(タランティーノの)が"les héros sordides"(下劣なヒーロー)を修飾している。
  • ヒーローとタランティーノが同一人物なら、ヒーローは原文のような複数形でなく、単数形"l'héros sordide"になるはず。

原文の"brutal et borné"(粗暴で偏狭)は文法的にはTarantinoだけを修飾することも可能だろう。しかし、ヌレエフに似ているとされているのがタランティーノ自身でなくその主人公なのは明らかなので、"brutal et borné"という形容も主人公のものだと見なすほうが自然。

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