笑いは二人の高揚を高めた

『ヌレエフとの密なる時』P.101:
突然笑い声が私たちを遮り、
Telperion訳:
不意に我々の中から笑いが沸き起こり、
原本『Temps Liés avec Noureev』:
Soudain le rire vint nous envahir,

最終章、ヌレエフ亡き後にローラン・プティの夢とうつつのはざまでプティとヌレエフがひとつになって踊ったときのこと。

直訳は「不意に笑いが我々を満たしに来た」。envahirは「侵入する、いっぱいに広がる、満たす」などといった意味だが、主語が笑い(le rire)、目的語が我々(nous)なので、この場合の意味は「(感情などが)満たす」だろう。笑いが満たす対象としてヌレエフも含まれるということは、笑いに満たされる状態は内心だけのことでなく、外から見てもそれと分かるのだろう。恐らく2人は笑い出したのだと私は想像している。

新倉本ではこの文は前後の状況に水を差す

この文は「もはや一心同体になっていた」の次に来る。さらにこの文に続いて「どんどん回転の速さを増していった」「大勢の群衆がやって来て観客となり」「もっと踊って、もっともっと」(訳本より)と、興奮が見る間に高まっていく。

新倉真由美の上記の訳の何が引っ掛かるかというと、その高ぶりに水を差す内容だということ。他人が笑い声をあげ、プティとヌレエフを邪魔したかのよう。プティがいう笑いとは2人の心からほとばしり出るもので、2人を引き離しも止めもしていないのに。直後にハイテンションの文が続くため、一瞬のことではある。しかし、私は訳本のここを読むたびに、短距離走のランナーが途中で小石か何かにつまずいたのを見るかのように、緊張の糸が切れるのを感じる。

主な更新

2016/5/11
諸見出し変更
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