マッチョ好き説よりセレブ好き説を支持する原著者

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』P.178:
相手を物色するときに美学的な基準はなく、筋骨隆々の恋人たちを好んでいた。著名人に惹かれた一面を指摘する人もいる。彼の“征服した人びと”のリストにはキラ星のごとく輝かしい名前が連ねられている。
Telperion訳:
「美しさは彼が性的な生活で求めた要素ではありませんでした。際立った美的基準はなく、筋肉質でたくましい恋人が好きでした」と友人の一人は語る。
それに反して、彼の恋人選びにおける有名人の魅力ある側面について自問することができる。彼の著名な「征服」のリストはそれほどまでに長い。
原本『Noureev』:
« La beauté n'était pas l'élément qu'il recherchait dans sa vie sexuelle, rapporte l'un de ses amis. Il aimait des amants musclés, bien menbrés, sans critères esthétiques marqués. »
En revanche, on peut s'interroger sur l'aspect attractif de la célébrité dans le choix de ses amants, tant est longue la list de ses « conquêtes » illustres.

ヌレエフが性的関係を持ちたくなる相手として、ここでは2つの説が出る。

  • ヌレエフはたくましい男が好き
  • ヌレエフは有名人が好き

2番目の説を出す前に"En revanche"(それとは逆に)という前置きを付けていることから、原著者メイエ=スタブレ(Meyer-Stabley)は2つの説を相反すると見なしていることが分かる。

マッチョ好き説は伝聞として提示される

2つの説を誰が唱えているのかは、メイエ=スタブレと新倉真由美の文で異なる。

メイエ=スタブレの文
  • 「たくましい男」説を唱えるのはヌレエフの友人の一人
  • 「有名人」説を唱えるのは代名詞onで表される不特定の人びと
新倉真由美の文
  • 「たくましい男」説を唱えるのはメイエ=スタブレ
  • 「有名人」説を唱えるのは不特定の誰か

メイエ=スタブレは「自分はこう思う」と明記していない。しかし、1番目の説を唱えるのが明白に他人なのに対し、2番目の説を唱えるのは不特定の人びとなので、そのなかにメイエ=スタブレが紛れ込むことは十分に可能。メイエ=スタブレは2番目の説に肩入れしていると思われる。

一方、新倉真由美の文では、メイエ=スタブレは1番目の説に肩入れしているとしか見えない。

原著者はこの後セレブ好き説の立証につとめる

引用部分の後、メイエ=スタブレはヌレエフと恋愛関係があったとされる有名人の名をいろいろ挙げる。しかもその筆頭は、ほっそりしていて筋骨隆々に見えないアンソニー・パーキンス。メイエ=スタブレが「ヌレエフは有名人が好き」説を信じているのはあまりにも明らか。新倉真由美の文はメイエ=スタブレによる力の入った例示と合わない。

私から見ると、メイエ=スタブレは「ヌレエフと有名人の誰それは恋愛関係にあった」という説に飛びつきすぎるきらいがあり、眉唾物も多いように思える。フレディ・マーキュリーについて否定的な人もいるのは「三日月クラシック」にあるとおりだし、イヴ・サンローランの場合など、根拠が薄いのをメイエ=スタブレ自身が自覚しているようだし。しかし翻訳するなら、原著者の意見・論理はきちんと伝えるのが訳者の務めと思う。

更新履歴

2014/2/22
大幅に書き直し
2016/5/13
諸見出しを変更
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