契約書を書くときの困難の列挙

『密なる時』P.81:
ひとたび始めると止まることを知らず、綴りも文法上の誤りもなく、使い込んでぼろぼろになった辞書で見つけることのできなかった単語はロシア語で書いたり、さもなければ彼独自の言葉を捏造したりして書きまくり、そうやって野獣ヌレエフは彼の目的を遂げていった。
プティ原本:
il était parti, rien ne l'arrêtait, ni les fautes d'orthographe, ni la construction des phrases, pas plus que les mots qu'il ne trouvait pas dans son dictionnaire broussailleux, ceux-là il les écrivait en russe, ou bien il les inventait, les fauve arrivait toujours à ses fins.
Telperion訳:
彼は取り掛かり、何ものにも阻止されなかった。スペルの間違いにも、フレーズの構築にも、毛羽立った辞書で見つからない言葉にも。これはロシア語で書くか発明するかして、野獣は常に目的を達していた。

1980年代後半、プティと和解したヌレエフがパリ・オペラ座バレエでのプティ作品の上演を契約書にまとめるとき。

1番目と2番目に挙げた困難

"Aを否定する文 ni B"は、Aを否定した後でBも否定するための構文。上の原文第1文に当てはめるとこうなる。

A
rien(何も)
B
  • "les fautes d'orthographe"(スペルの間違い)
  • "la construction des phrases"(フレーズの構築)
Aを否定する文
"rien ne l'arrêtait"(何も彼を止めなかった)
Bも否定する文
  • スペルの間違いも彼を止めなかった
  • フレーズの構築も彼を止めなかった

文全体の意味は「仏文ライティング上のどんな困難にぶつかっても、彼は書き続けた」なのだろう。

ロシア語やでっちあげの単語が混ざっているのに「綴りも文法上の誤りもなく」というのは、あまりもっともらしく思えない。ましてプティは引用部分の直前で、ヌレエフのライティング能力に大きな疑問符を付けている。

3番目に挙げた困難

"pas plus que ~"はniと同様、その前に否定した語句を別の語句に入れ替えた否定文を作るために使われる。引用部分で"pas plus que"に続く「"les mots qu'il ne trouvait pas dans son dictionnaire broussailleux"(毛羽立った辞書で彼が見つけなかった言葉)も、スペルの間違いやフレーズの構築と同じく、「彼を止めなかった」もの。

不確定な個所

残念ながら、辞書につく形容詞broussailleuxの意味合いは、私には自信がない。仏和辞書には「草ぼうぼうの」とか「もじゃもじゃの」とかあるのだが。

2014/2/24
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