伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

ヌレエフの官能性が当時のバレエに波及したとは限らない

『ヌレエフ』P.148:
一九六〇年代、彼はクラシックバレエをエロティシズムを表現する真に大衆的な現象として積極的に変化させた。
Meyer-Stabley原本:
Celui qui, dans les années 1960, va transformer la danse classique en un véritable phénomène populaire joue volontiers sur la sensualité.
Telperion訳:
1960年代に古典バレエを真の大衆的な現象に変えることになる男は、積極的に官能性に賭けた。

Meyer-Stableyがこの文でヌレエフの行ったこととして挙げたのは2つ。

古典バレエを真の大衆的な現象に変えることになる
主文の主語は、"Celui qui va transformer la danse classique en un véritable phénomène populaire"。"celui qui + ~(関係節)"は「~である男」という意味で、むろんヌレエフ。ここでquiに続く関係節の内容は上に書いたとおり。
積極的に官能性に賭ける
主文の述部は"joue volontiers sur la sensualité"。使われている"jouer sur ~"は、「~に賭ける、~を当てにする」なので、述部全体の意味は上に書いたとおり。

1番目はバレエという芸術分野、2番目はヌレエフ自身の踊りにかかわること。新倉真由美の訳では、この2つがまぜこぜになり、エロティシズムもヌレエフ個人でなく古典バレエの特性のように扱っている。しかし、ヌレエフのおかげで古典バレエに一般人気が出たという話はよく聞くが、古典バレエの官能性が強調されるようになったというのは初耳。古典バレエの説明とヌレエフの説明を無頓着にまとめるべきではないと私は考える。

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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