フォンテーンは苦悩よりまず思いやりの人

『ヌレエフ』P.156:
深い懊悩を背負うタイプの女性だったマーゴット・フォンテーンは、オレンジ色やラヴェンダー色を傷つけるのを恐れ、本当に好きな色はピンクだと告白したことは一度もなかった。
Telperion訳:
ところがマーゴ・フォンテーンは、たとえ拷問されても、オレンジ色や藤色を傷つけるのを恐れ、ピンクがお気に入りの色だと明かさないタイプの女性だった。
原本『Noureev』:
Or Margot Fonteyn est le genre de femme qui, même sous la torture, n'avouerait jamais que le rose est sa couleur préférée de peur d'offenser l'orange ou le mauve.

フォンテーンがヌレエフと男女の仲だったのかについて自伝ではぐらかしたことを述べた後に続く文。

フォンテーンは苦しむタイプではない

原文ではまず「フォンテーンは~というタイプの女性だった」(Margot Fonteyn est le genre de femme qui)と切り出し、関係詞quiの後でフォンテーンの性格を説明している。その説明の主要な文はこれ。

  • ピンクがお気に入りの色だと決して告白しない("n'avouerait jamais que le rose est sa couleur préférée)

そして次の2つの語句が補足説明となっている。

  1. たとえ拷問されても(même sous la torture)
  2. オレンジ色や藤色を傷つけるのを恐れ(de peur d'offenser l'orange ou le mauve)

「たとえAであってもBである」という文では、本当に主張したいのはBであり、「たとえAであっても」はそれでもBは正しいと強調するための付け足しなのがほとんど。「たとえ拷問されても」は、好きな色を告白しないという意志がどれほど強いかを目立たせるための表現に過ぎない。

好きな色を告白しなかったのは現実か

原文には、「他の色を傷つけるのを恐れてお気に入りの色を告白しない」がフォンテーンに関する事実でないと思わせる仕掛けが2つある。

  1. 「お気に入りの色を告白しないタイプの女性だった」という言い方。告白しないのはフォンテーン自身というよりタイプの説明だと思わせる。
  2. 述語n'avouerait(告白しない)の時制が条件法現在。記事「最初の不協和音の前にスト?」でも書いたが、条件法は単なる断定文では使わない用法。条件法現在の用法の一つとして、現在の事実に反する仮定を述べるというのがある。英語でいう仮定法現在に当たる。

事実でないなら、比喩と捉えるのが自然だろう。この文で述べているのはフォンテーンの好きな色ではなく、他者を傷つけそうな本心を決して明かさないという性格。この文脈でMeyer-Stableyが言いたいのは、「フォンテーンは誰かを傷つけかねない告白を絶対しないのだから、ヌレエフとの男女関係を認めなくてもそれを信じることはできない」となる。

この文の出典

『Nureyev: His Life』(Diane Solway著)のペーパーバックP.298で、イギリスのバレエ評論家リチャード・バックル(Richard Buckle)によるフォンテーンの人物評が引用されている。出典は1969年3月30日のSunday Times紙。

She would never, even under torture, admit that pink was her favourite colour for fear of offending orange and mauve.

Meyer-Stableyがこの文をフランス語に訳し、「~というタイプの女性だった」と付け加えたことは明らか。仮定法現在の時制が述語"would never admit"で使われていることも分かる。

2014/1/29
大幅に書き換え
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