第二次世界大戦前は順調に暮らしていた父

『ヌレエフ』P.13:
薄給だった父親は、スターリンが少数民族の軍幹部を更迭したため大尉から降格された。
Telperion訳:
父(その俸給は雀の涙だった)は、戦後スターリンが軍から少数民族の幹部を全員更迭することを決意したとき、大尉の位から降格されることになる。しかしこの1938年、父にとってスターリンのソ連は神の摂理に思えた。
原本『Noureev』:
Son père (dont la solde était misérable) sera cassé de son grade de capitaine après la guerre, lorsque Staline décidera de limoger de l'armée tous les cadres appartenant à des minorités ethniques. Mais en cette année 1938, l'Union soviétique de Staline lui semble providentielle.

ヌレエフが生まれた1938年当時の父ハメットについて。

ハメットはまだ降格されていない

ハメットが降格されるのが1938年より後なのは、原本では以下のことから分かる。

  1. 「(スターリンが)決意する」(décidera)と「(ハメットが)降格される」(sera cassé)の時制が直説法単純未来。つまりこれらは未来の出来事
  2. ハメットが大尉に昇進するのは第二次世界大戦中
  3. スターリンが更迭を決意するのは戦後(après la guerre)。文脈的に第二次世界大戦が終結した1945年以後

1938年のハメットが恵まれた環境にいたことは、原本でははっきりと書かれている。なのに新倉真由美はその文も、降格がまだ先のことだという言及も消してしまった。

ハメットの経歴を何度もみじめに描く新倉真由美

ハメットの経歴についての新倉真由美の扱いが不審なのは、ここだけではない。

これだけ積み重なると、新倉真由美は「ハメットは共産主義に期待したものの裏切られ、みじめな暮らしを送った」と信じているのではないかという疑いが湧いてくる。第二次大戦前のヌレエフ一家がささやかな幸せを満喫していたことは、レストランで息子の誕生を祝ったり(訳本P.12)、息子が映画館に忍び込んだり(訳本P.14)しているという描写からもうかがえるのだが。

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