最初の不協和音の前にスト?

『ヌレエフ』P.252:
この画期的な改革は怒りを招きストライキを起こさせた。
Telperion訳:
そう遠くない昔なら、怒りとストライキを呼び起こしたであろう革命である。
原本『Noureev』:
une révolution qui, il n'y a pas si longtemps, aurait provoqué fureurs et grèves.

ヌレエフがパリ・オペラ座バレエ監督に就任して早々に始業時間を早めたことについて。

怒りやストライキは実際に起きたことではない

述語の動詞provoquer(呼び起こす)の時制は条件法過去(aurait provoqué)。条件法が使われるのは、たとえばこんな場合。

  1. 推測や伝聞などのあいまいなことを述べる
  2. 相手に丁寧な印象を与える
  3. 現実と違う仮定を述べる

ストという公の行為が行われたかどうかにあいまいさはないだろうし、読者に向かって著者が特にへりくだるべき理由もない。条件法の用法のうち、ここに最も合うのは「現実と違う仮定を述べる」。つまり「怒りとストライキを呼び起こした」は現実ではないと推測できる。

もし別な時期だったらという仮定

この種の仮定文には「もし~なら」という条件が含まれるのがつきもの。ここでは"il n'y a pas si longtemps"がそれに当たる。新倉真由美はこの語句を完全に無視した。

"il y a longtemps"とは「ずっと前に」。これにsi(それほど)とne(~でない)が加わった"il n'y a pas si longtemps"は「それほど前ではなく」。それが条件法の述語と組み合わさることで仮定の意味が加わり、「それほど前でなければ、少し前なら」となる。

つまりこの文で言いたいのは、「少し前、つまりヌレエフの就任前に監督の短期交代が繰り返されていた頃なら、始業時間の変更はダンサーたちに大反対されただろう(しかしヌレエフのときはそういう騒ぎもなく、変更が行われた)」ということ。

新倉真由美の文の不自然さ - まだ不協和音はないのにスト

訳本には、ヌレエフがパリ・オペラ座バレエの監督に就任した当初はトラブルがなかったと書いてあり、この引用文もその部分に含まれる。このときストのような派手な対決が起きてしまっては、少し後で「最初に不協和音が生じたのは、すでにさまざまな役職を兼任するヌレエフがダンサーとしても先頭に立ちたいと言い出したときだった」という意味のことが書かれる(新倉本P.255)ことと矛盾する。

更新履歴

2014/2/2
文法説明を強化
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