父の姓はかつてヌリエフだった

『ヌレエフ』P.20:
父親の Hamet (Nouri の息子) と Farida はタタール人とロシア人の区別をしていなかった。
Telperion訳:
父ハメット・ヌリエフ(「ヌリの息子」)、そしてファリダは、言いたいことをタタール語またはロシア語で区別なく話していた。
原本『Noureev』:
Son père, Hamet Nouriev (« fils de Nouri »), et Farida s'exprimaient indifféremment en tartare ou en russe.

本来ファスリという姓だった一族からヌレエフという姓が生まれたいきさつについて。

「ヌリの息子」とは人物説明でなく姓の意味

原本でヌレエフの父ハメットの姓は、ヌレエフのフランス語表記Noureevとは違うスペル、Nourievと書かれている。次の2点から、Nourievというスペルは意図的であり、「ヌリの息子」という意味を持つ姓なのだと推測できる。

  1. Nourievの中にハメットの父の名Nouriが含まれている。
  2. Nourievの後にある"fils de Nouri"(ヌリの息子)が、丸括弧()と二重角括弧«»で囲まれている。ハメットがヌリの息子だという説明を指すなら、丸括弧で囲むだけで十分。さらに二重角括弧で囲むということは、「ヌリの息子」には別な意味もある。

両親が区別しなかったのは民族ではなく話す言語

この文はヌレエフの父母が普段使う言語について説明している。

  1. 述語の代名動詞s'exprimerは「自分の考えを表す、話す」
  2. 文中の名詞russeは「ロシア語」。「ロシア人」なら先頭が大文字のRusseのはず

「タタール語もロシア語も区別なく話していた」は、ヌリエフという姓の中にタタール語の名であるヌリとロシア語の姓の語尾に多いエフがともに含まれる理由づけとなっている。

おまけ - 他の伝記では姓の由来が少し違う

引用文の直前の文は次のとおり。私にも新倉真由美の訳は妥当に見える。

訳本:
登記上の手違いでヌレエフの祖父はNouriと記載された。
Meyer-Stabley原本:
À la suite d'une erreur administrative, on enregistra le grand-père de Noureev sous le nom de Nouri.

この場合、祖父の姓が役所の間違いでファスリからヌリになったように読める。しかし『Nureyev: His Life』(Diane Solway著)や『Nureyev: The Life』(Julie Kavanagh著)によると、ヌレエフの祖父の名はヌリアハメット・ファスリエヴィチ・ファスリエフ(Nuriakhamet Fasliyevich Fasliyev)。ヌリは祖父のファーストネームの一部であり、祖父の姓は変わらなかった。

SolwayやKavanaghによると、郷里を出るとき自ら改名したのは父ハメット。ハメットの名の変遷は、Solway本とKavanagh本でわずかに異なる。

Solway本
  • 改名前の名はハメット・ヌリアハメトヴィチ・ファスリエフ(Hamet Nuriakhametovich Fasliyev)
  • 改名後はハメット・ファスリエヴィチ・ヌリエフ(Hamet Fasliyevich Nuriyev)
  • 後に役所がヌリエフをヌレエフ(Nureyev)として登録してしまった
Kavanagh本
  • 改名前の名はヌリアハメット・ヌリアハメトヴィチ・ファスリエフ(Nuriakhamet Nuriakhametovich Fasliyev)
  • 改名後は最終的なハメット・ファスリエヴィチ・ヌレエフ(Hamet Fasliyevich Nureyev)

更新履歴

2016/5/13
諸見出し変更、箇条書きスタイル変更
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