シャトレ公演と監督就任

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』P.247:
シャトレでのシーズンが彼をパリに引き戻し、以前から夢見ていた目標の設定に繋がったのだろうか。
Telperion訳:
そして、彼にとってシャトレでのこのシーズンは、定住をたいそう長い間夢見ていたパリへの帰還を果たすきっかけだったのではないのか?
原本『Noureev』:
Et puis cette saison au Châtelet n'est-elle pas pour lui un prétexte à effectuer sa rentrée à Paris, où il rêve depuis bien longtemps de se fixer ?

パリ・オペラ座バレエの監督に就任する前年、パリのシャトレ座で公演したことについて。

原文の解析

  1. 原文でコンマまでの部分は、「そしてシャトレでのこのシーズンは、彼にとってパリへの帰還を果たすきっかけではないのか?」。
  2. コンマの後にある関係節"où il rêve depuis bien longtemps de se fixer"は、場所について説明する。この場合の場所とは直前にあるParis。
  3. 関係節の意味は「彼が定住することをたいそう長い間夢見ている」。中にある"se fixer"には「固定する、定着する、決める」などの意味があるが、ここではパリに関わることなので、「定住する」が最も合う。

新倉真由美の文の問題

1. "se fixer"の解釈

"se fixer"には「~に決める」という意味もある。新倉真由美の「目標の設定」はそのあたりから生まれた訳語かも知れない。しかし、この意味の場合は、何に決めたのかを次のように明示する。

  • se fixer sur cette robe このドレスに決める
  • se fixer un objectif 自分に目標を課す

原文では"se fixer"が単独なので、「決める」という意味は使えない。新倉真由美は「目標」を決めたこととして創作したが、対応する単語は原文にない。

2. シャトレ公演をきっかけに行われたことの拡大

「~のきっかけ」の「~」に当たるのは、パリへの帰還に限られる。「目標の設定に繋がった」という訳文を読む限り、新倉真由美は「彼が夢見ていた」云々の関係節も含まれると考えたらしいが、この関係節はあくまでパリの説明。シャトレ公演がきっかけで目標を設定したとか定住したとかいうわけではない。

3. 現実性の低さ

ヌレエフが何の目標を設定したのか、訳本を読んでも明かされないまま。監督に就任するのはフランス政府側からの働きかけで、ヌレエフが設定した目標とは言えないだろう。

もっとも、税金を安くするためにフランスをしょっちゅう不在にしたヌレエフがパリに「定住を夢見ていた」という、原著者メイエ=スタブレ(Meyer-Stabley)の言い分も疑わしいのだが。この文は近いうちの監督就任を匂わせる前ふりでしかなく、真剣な推測ではないのだろう。

2014/2/4
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