伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

1人の風貌と存在感がコントラストをなす?

『ヌレエフ』P.64:
プリマバレリーナはルドルフを“リフトが素晴らしく、エキゾティックな風貌と存在感が魅力的なコントラストをなし、この世のものとは思えないダンサーだ”と絶賛している。
Meyer-Stabley原本:
La prima ballerina du Kirov dira plus tard que Rudolf l'a portée merveilleusement, que sa présence « exotique » a apporté un contraste saisissant avec son apparence à elle, plus éthérée.
Telperion訳:
後にキーロフのプリマ・バレリーナは、ルドルフのリフトは素晴らしかった、その「エキゾチックな」存在感は、もっとこの世のものならぬ自分の外見とは、目を見張るほどの対照をなしたと語る。

キーロフに入団したばかりのヌレエフをパートナーに起用したナタリア・ドゥジンスカヤの述懐。

風貌はドゥジンスカヤのもの

"sa présence « exotique »"(彼の「エキゾチックな」存在感)と対照をなす"son apparence à elle"は「彼女の外見」。sonは「彼の、彼女の」両方の意味があるため、"à elle"(彼女の)と追加することで、ヌレエフでなくドゥジンスカヤの外見だということをはっきりさせている。

この世のものならぬのはドゥジンスカヤ

éthéréの意味として仏和辞書にあるのは「空気のような、とらえどころのない、この世のものならぬ、清純な」といったところ。ウィリやシルフの役が似合いそうな雰囲気ということではないかと思う。

この言葉が表しているのは、直前にある「彼女の外見」(son apparence à elle)、あるいは「彼女」(elle)。原文でéthéréの後に語尾eが付いているのは、この形容詞が女性名詞を形容しているから。

plus(もっと)が付いているのは、ヌレエフと比較しているのだろう。ドゥジンスカヤほどéthéréでない、というよりéthéréという言葉がおよそ似合わないヌレエフが対照をなすのはもっともなこと。

「風貌と存在感がコントラストをなす」という表現は意味不明

新倉真由美は"son apparence"を「彼の外見」と解釈しているが、たとえ"à elle"を考慮に入れなくても、「ヌレエフの存在感と風貌がコントラストをなす」は無理があると思う。ある一人を見るとき、その外見と存在感は切り離せないものであり、外見から受ける印象と存在感から受ける印象が大違いというのがどういう状態か、私にはまるで想像できない。

2014/2/4
éthéréの語尾に言及

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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