ダンサーたちを踊らせるという偉業

『ヌレエフ』P.265:
成功の陰に徐々にひとつの事実が浮かび上がってきた。恐るべきルディは多くの人に使い捨てのように見なされていたオペラ座のコールドバレエをバレエに…素晴らしいバレエに戻すことに成功した。
Meyer-Stabley原本:
Car aux yeux de tous s'impose bientôt une évidence : Rudi le Terrible a réussi ce que beaucoup considéraient comme une cause perdue, remettre le corps de ballet de l'Opéra à la danse... et à la bonne danse.
Telperion訳:
というのも、明白なことがやがて衆目の一致するところとなったからだ。すなわち、恐るべきルディは多くの人々が失われた大義と見なしていたこと、オペラ座の団員をバレエに戻すことを成し遂げた…それも優れたバレエにだ。

ヌレエフが自ら率いるパリ・オペラ座バレエとともに高評価をかちえたことについて。記事「ダンサーとしての成功から監督としての成功へ」に続く文。

オペラ座団員は使い捨てのように見なされていない

恐るべきルディが成功したことを、Meyer-Stableyは2つの表現で書いている。1番目の表現では何のことか分からないので、2番目の表現ではっきりさせている。

  1. ce que beaucoup considéraient comme une cause perdue (多くの人が"cause perdue"と見なしていたこと)
  2. remettre le corps de ballet de l'Opéra à la danse"(オペラ座の団員をバレエに戻す)

causeもperdueも訳語が多いので、1番目の表現で組み合わさった"cause perdue"がどういう意味かを考えるのは少々手間取る。

perdu
基本的な意味は「失われた」。「使い捨ての」「途方に暮れた」など、多くの派生語がある。
cause
「原因」、「大義」、「訴訟」という3通りの訳語がある。

結局、私は"cause perdue"に「失われた大義」という訳語を当てた。なぜなら、perduとcauseの意味の組合せのなかで相性がよいし、「~だと見なされていたことをヌレエフが成し遂げた」という文脈にも合うから。団員たちが見事に踊るのが「失われた大義」呼ばわりされたのは、実現不可能な理想だと思われていたからだろう(「パリ・オペラ座バレエの御しにくさ」を参照)。

最初に書いたとおり、「多くの人が"cause perdue"と見なしていたこと」はヌレエフが成功したことの説明であり、オペラ座団員の説明ではない。それにcauseの意味を見る限り、"cause perdue"に団員たち自身を指すような訳語を当てるのは至難の業。

成功の陰に浮かび上がることの話はしていない

最初の「なぜなら明白なことが誰からも認められたからだ」(Car aux yeux de tous s'impose bientôt une évidence)は、引用直前の文で書かれた、ヌレエフが認められてパリ・オペラ座バレエが勝利したことの理由を挙げている。しかしこれだけでは、何が明白なのか分からない。その説明は"une évidence"(明白なこと)に続くコロンの後に来る。コロンの前にあることをコロンの後で詳細に説明するのは、コロンの一般的な用法のひとつ。

コロンの後にある「ヌレエフは失われた大義に成功した、団員たちをバレエに戻した」とは、世間が認めるようになったことであり、ヌレエフとバレエ団が名声を高めた理由でもある。「成功の陰に浮かび上がる事実」では、成功に関連する別なことのようだが、実際にはもっと成功と一体化したもの。現に、「~の陰に」という意味の部分は原文に見当たらない。

"le corps de ballet"はコールドバレエより広範囲

日本語で「コールドバレエ」といえば、ソロで踊らない下位のダンサーたち。しかし『Noureev』では、"le corps de ballet"が上位ダンサーも含めたバレエ団を指すことがよくある。最も分かりやすいのが、新倉本P.272に相当する、「"le corps de ballet"のなかでエトワールは12名だけ」という文(「三日月クラシック」の記事より「P.272 オペラ座のコールドバレエ~」を参照)

上記の部分で"le corps de ballet de l'Opéra"を「エトワールとプルミエ・ダンスールを除いた階級の団員」と限定する意味はなさそうなので、私は単に「団員」と訳しておいた。

更新履歴

2014/6/18
小見出しの変更を中心に書き換え
関連記事

コメント

非公開コメント