伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

ヌレエフとトレイシーの共演は続いていない

『ヌレエフ』P.185:
トレイシーはヌレエフのヨーロッパ巡業に加わるようになり、その関係は死に至るまで続いた。
Meyer-Stabley原本:
Bientôt, Tracy rejoint Noureev en Europe et commence alors une relation qui durera jusqu'à la mort du danseur.
Telperion訳:
間もなくトレイシーはヨーロッパでヌレエフと再会し、このとき始まった関係はダンサーが死去するまで続くことになる。

ヌレエフが主演したバランシン振付「町人貴族」にロバート・トレイシーが参加したのがきっかけで、二人の間に深い関係が生まれたことについて。

もともとダンサーであるトレイシーが巡業に加わったと聞けば、ヌレエフの公演に出演したと考えるのが自然だろう。しかし、rejoindreの意味は単に「再会する、合流する」など。

他の伝記ではヌレエフとトレイシーの交際の始まりは次のように書かれており、トレイシーがヌレエフの公演で踊ったという記述はない。

  • Diane Solway著『Nureyev: His Life』のペーパーバックP.440
    出会い後まもなくトレイシーに自分のロンドン公演を鑑賞させる
  • Julie Kavanagh著『Nureyev: The Life』のペーパーバックP.525
    同じ年の夏のギリシャ旅行にトレイシーを同伴している

新倉真由美の文からは、トレイシーがヌレエフのヨーロッパ巡業の常連になったという印象を受ける。ダンサーとしてのトレイシーはヌレエフに高く評価されていたとも受け取れる。しかし恐らくそれは事実ではない。トレイシーはヌレエフの人生に深くかかわることになる一方、ダンサーのキャリアは短く終わってしまった。

仮にトレイシーが本当にヌレエフの巡業の常連だったとしたら、ヨーロッパ巡業に限定されるわけがないと思う。トレイシーはアメリカ人で、やがてヌレエフのニューヨークの家に住むようになるのだから。

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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