伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

批評家ジョン・パーシヴァルの逝去

イギリスの舞踊評論家ジョン・パーシヴァルがさる6月20日に85歳で亡くなったことを、今になって知りました。イギリスではあちこちに訃報記事が出ており、主だったリンクをBalletcoForumのトピックで見ることができます。日本でヌレエフとの関係で最も知られているのは、邦訳が出ている伝記『ヌレエフ 芸術と半生』の筆者であることでしょうか。この本はいつか読んでみたいと思っています。

パーシヴァルの文をごくわずかしか読んでいない私にとって、最も印象的なのは、1997年1月11日の英Independent紙の記事"Nureyev; the last 10 years"。放送されたばかりのドキュメンタリー"Dancing through Darkness"(邦題は「不屈のダンサー ヌレエフ」)がヌレエフの晩年を病魔にとりつかれた暗いものとして描いたことに、猛然とくってかかっています。たとえば以下の事柄はとても参考になりました。

  • 番組ではヌレエフが「ラ・バヤデール」ですべての力を使い果たした印象を受けるが、ヌレエフは初演後も数々の活動を計画していた。
  • ヌレエフのHIV感染が判明した当時、エイズの致死率は過小に見積もられていた。
  • 番組ではろくに説明されていないが、パリ・オペラ座バレエでの業績はまことに輝かしい。
  • 番組ではヌレエフとピエール・ベルジェの確執にまったく触れず、辞任の理由がヌレエフの一身上の都合のような印象を与える。

『Nureyev: His Life』(Diane Solway著)や『Nureyev: The Life』(Julie Kavanagh著)に書いてあることも多いのですが、読んだ当時の私はこの2冊を断片的にしか読んでいませんでした(Kanavagh本は今も部分的)。この記事が掲載されたとき、この2冊は存在していなかったので、当時の読者にはもっと価値ある情報だったと思われます。

パーシヴァルがヌレエフに甘いのは公然の事実ですが、その好意がこの記事で最もあふれ出たのは、やはり結びでしょう。ヌレエフは反感もよく買う一方、こういう親愛の情をかきたてることも多いのが不思議です。少し長いですが、段落全部を引用します。原文はリンク先に譲りますが。

それでも、この番組で最後に笑うのは、(人生で何度もそうであったように)実際にはヌレエフだ。縁起でもないコメントを忘れ、悲哀をかきたてる音楽を耳に入れないでほしい。ただヌレエフの顔を見てほしい。ほとんどどこでも笑みを浮かべるか、あけすけに笑い声を立てている。この人物が、今まさに脅かされ、「闇の中で踊る」人物だというのか。それとも私が覚えている、人生を愛し、最大限に楽しんだ人物なのか。決めるのはあなただ。(Telperion訳)

バレエ鑑賞歴は1943年にさかのぼり、バレエが花開いた時期を見てきたパーシヴァルの逝去で、その時代がまた遠くなったように感じます。ご冥福をお祈りいたします。

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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