伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

バレエと出会った場所は劇場

『ヌレエフ』P.24:
バレエはますます大切なものになっていきました。
Meyer-Stabley原本:
peu à peu, la danse me devint de plus en plus chère.
Telperion訳:
少しずつ踊りは私にとってますます大切になった。

7歳で踊りにひかれ始めるルドルフ。当初彼が見知っていた踊りは、バシキールの単調な民謡にあわせた踊り、民族舞踊の先生が教えてくれた水兵の踊り。1945年の大晦日にヌレエフ一家が見に行くウーファのバレエ団公演こそ、"Son premier ballet"(彼の初めてのバレエ)。

原本でdanseを「バレエ」と訳して支障ない個所は多い。たとえば訳本P.196「ヌレエフは“バレエの中に身を置く”ことに必死で」の原文ではdanseが使われている。しかし上の原文はバレエをまだ見たことがない時期についてなので、danseは明確に民族舞踊。バレエの虜になったヌレエフが、誰かが自分を「平凡な生活や民族舞踊や即興的な公演から連れ去っていってくれないかと夢想」(訳本P.32)することから考えても、民族舞踊はバレエではない。

なお、上の原文の少し前にも、原文がdanseで訳文が「バレエ」の個所がある。ただしこの場合は、話し手が「これだけ民族舞踊がうまいのだから、バレエをさせたら素晴らしいに違いない」と思っているようなので(「レニングラードのバレエ学校に入れてあげて」と続くから)、紛らわしいとはいえ、間違いとも言えないように思う。

『ヌレエフ』P.24:
ルディはバレエの天才だよ。
Meyer-Stabley原本:
Rudi a des dispositions pour la danse... C'est un don...

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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