伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

30年前との対比

『ヌレエフ』P.284:
キーロフの主オレグ・ビノグラドフは胸を張った。「かつての軽薄な彼ではなく、大成功を収め、
Meyer-Stabley原本:
Pour le patron du Kirov, Oleg Vinogradov, « ce n'était bien sûr plus le même homme ni la même légèreté, mais ce fut tout de même un très grand succès,
Telperion訳:
キーロフの主オレグ・ヴィノグラドフにとっては、こうである。「もちろん、もう同じ人間でも同じ軽やかさでもありませんでしたが、それでも大成功で、

1989年にヌレエフがキーロフ・バレエにゲストとして出た公演について。

ヴィノグラドフが「大成功」(un très grand succès)に「しかし」(mais)「それでも」(tout de même)と付け加えているので、その前では公演に対して否定的なことを言っていると分かる。つまり、発言前半の「同じ人間でも同じ軽やかさでもない」とは、「軽薄でなくなった」という賛辞ではなく、ヌレエフの動きがかつてより重くなったという遺憾の言葉。ヌレエフがキーロフの一員として踊っていたのは30年も前なのだから、当時と違うことは認めないわけにはいかなかったのだろう。

なお、「胸を張った」に当たる言葉は原文にはない。とはいえ、この場合は、実際のヴィノグラドフの態度とかけはなれてはいないように思える。

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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