伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

ファリダの眼病はソ連当局の責任か

『ヌレエフ』P.280:
その悲惨な戦いの結果一九七九年に視力を失ってしまった。
Meyer-Stabley原本:
Une lutte d'autant plus pathétique qu'en 1979 elle perd la vue.
Telperion訳:
1979年に彼女が視力を失っただけに、戦いはなおさら痛ましい。

ソ連にいるヌレエフの母ファリダが、息子との再会を当局に空しく嘆願し続けたことについて。

"d'autant plus A(形容詞) que B(節)"は「BであるだけますますAである」。

  1. Aに当たるのは pathétique(痛ましい)。
  2. Bに当たるのは"en 1979"以降文末まで。ファリダが視力を失ったことに触れた部分。

ファリダの戦いと視力の間に因果関係があるかはこの文で触れていない。私個人としては、ファリダが拘束されたとか、苛烈な取り調べを受けたとかいうわけでもないのに、ファリダが視力を失ったのはソ連当局のせいだとまで言うのはためらわれる。

更新履歴

2012/9/24
「失明」を「視力を失う」にすべて書き換えました。ファリダは完全に視力を失ったわけではないし(この文の後で書類に記入しているし、訳本P.283では「半分盲目」とある)、"perdre la vue"が失明のみを指すという確証もないためです。

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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