伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

グラスの割り方は案外静か

『ヌレエフ』P.169:
すると彼はその空のグラスを叩きつけ、他のグラスも割ってしまったのです。
Meyer-Stabley原本:
Alors... il laissa tomber son verre vide qui se brisa sur quelques autres.
Telperion訳:
すると…彼は自分の空のグラスを落とし、グラスは他のグラス数個の上で割れた。

ウェイターに気づかれず、なかなか飲み物をもらえなかったヌレエフの行動。"laisser A(自動詞の原形) B(名詞)"は「BがAするのに任せる」という弱い使役文。原文に当てはめると「空のグラスが落ちるのに任せる」となる。つまりヌレエフはグラスが置いてあるテーブルの上で自分のグラスから手を離した。グラスを数個割るという意図なのは同じだが、それを訳本のように表現するのは、尾ひれを付けたという印象を禁じ得ない。

更新履歴

2012/12/14
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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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