伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

ロイヤル・ヨットはアンティル号ではない

『バッキンガム』P.191:
夫妻は足早に両親や贈り物や馬を後にし、ロイヤルヨット、アンティル号に向かった。
Meyer-Stabley原本:
Le couple quitta rapidement parents, cadeaux, sujets et chevaux pour cingler vers les Antilles à bord du yacht royal.
Telperion訳:
夫妻は両親、贈りもの、臣民や馬から速やかに離れ、王室ヨットに乗ってアンティル諸島に針路を取った。

アン王女とマーク・フィリップスの結婚式後のこと。

アンティルは地名

夫妻が向かった先である"les Antilles"が航海の目的地だということは、次の2点からだけでも分かる。

  1. 「向かう」に対応する原文の動詞はcinglerで、「(ある場所に向けて)航行する、針路を取る」。
  2. 原文最後の"à bord du yacht royal"は「王室のヨットに乗って」。

それにAntillesそのものも仏和辞書に「アンティル諸島」として載っている。

王室ヨットはブリタニア号

念のため、アン王女のハネムーン先がどこかに書いていないかと探したら、王室ヨット、ブリタニア号のWebサイトに英国王室カップル4組のハネムーン航海が載っているのが見つかった。アンとマーク・フィリップスのハネムーンの説明には、"Their cruise around Barbados and the Caribbean"(二人がバルバドスおよびカリブ海を一周りする航海)とある。アンティル諸島はカリブ海にあるので、実際に二人のハネムーン先らしい。

このブリタニア号、もうお役御免になったというのに、今なお単独のWebサイトがある。よほど重要な乗り物だったのだろう。今では観光スポットとして公開中らしく、日本語の説明文も無数に見つかる。

私は英国王室に関する知識をろくに持ち合わせていないので、新倉真由美の文に何の違和感もなかった。この文の誤訳に気づいたのは、少し前の部分の原文をチェックしたとき、たまたまここが目に入ったからに過ぎない。でも、もっと詳しい読者なら、「ロイヤルヨット、アンティル号」を読んで唖然とするかも知れない。

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

プロフィール

Telperion

Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

カテゴリ
最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
タグ

マーゴ・フォンテーン エリック・ブルーン ノートルダム・ド・パリ パトリック・デュポン マリア・トールチーフ ミック・ジャガー 

全記事表示リンク

全ての記事を表示する