伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

モスクワは飛行機の出発地(1)

『ヌレエフ』P.74:
モスクワへの飛行機移動
Meyer-Stabley原本:
le transport par avion depuis Moscou
Telperion訳:
モスクワからの飛行機移動

レニングラードのキーロフ・バレエで踊っていたころ、真冬にロシア北部のヨシュカル・オラ(地名については後述)に派遣されることになったヌレエフが出した条件。

Moscou(モスクワ)の前にある前置詞depuisは「~から」。「~へ」という意味はない。モスクワは疑問の余地なく、飛行機の出発地。目的地はもちろんヨシュカル・オラだろう。

ヌレエフはヨシュカル・オラへの旅の寒さで筋肉に支障が出ることを恐れ、この条件を出した。飛行機なら寒さに耐える時間が減るのだ。あいにく、実際にはこの条件は守られなかったのだが。飛行機の出発地がヌレエフの住むレニングラードでなくモスクワなのは、モスクワほどの大都市でないレニングラードにはヨシュカル・オラへの便がなかったからだと推測できる。

レニングラードからモスクワへの移動は、モスクワからヨシュカル・オラへの移動に比べて取るに足らない距離のはず。新倉真由美のヌレエフがモスクワまでの移動にしか手を打たないのは不自然。

Meyer-Stableyのミス - 地名

ヌレエフの派遣先は原文ではIochko-Rola(訳本P.74ではイオチコ・ローラ)だが、恐らくフランス語表記Iochkar-Olaという都市のことだと思う。Iochko-Rolaというスペルではインターネット上の検索で用例が見つからないし、伝記『Nureyev: His Life』(Diane Solway著)ではIoshkar-Olaとある。

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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