伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

「魅惑する」が「激怒する」に

『ヌレエフ』P.162:
気が散って苛立ち激怒する。
Meyer-Stabley原本:
il déconcerte, irrite, fascine.
Telperion訳:
面食らわせ、いら立たせ、魅惑する。

述語3つはすべて能動態なので、ヌレエフから他者への働きかけだと分かる。2番目のirriteを例にとると、ヌレエフがいら立つのではなく、ヌレエフのせいで他者がいら立つ。

このあたりでは、ヌレエフがくるくる気分を変える様子が描かれている。だから「いら立たせる」と「魅惑する」が並ぶのには何の不思議もない。fasciner(魅惑する)に「激怒する」という訳はあり得ない。

2012/6/22追記

déconcerterは「狼狽させる、まごつかせる」。新倉真由美はdéconcentrer(分散させる、注意をそらす)と混同した上で、受動態のように扱ったように見える。

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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