伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

最初の絨毯と2番目の絨毯がある理由

『バッキンガム』P.42:
レッドカーペットは〈お手元金入口〉の扉から宮廷まで敷き詰められているため、かなり傷んでいる。
Meyer-Stabley原本:
Le premier tapis rouge est plutôt élimé, car il s'étend des marches de Privy Purse jusqu'à la cour.
Telperion訳:
最初の赤絨毯はかなりすり減っている。君主手許金の階段から中庭まで延びているためだ。

謁見に呼ばれた訪問者が宮殿に入った直後の場所の描写。

courは宮廷でなく中庭

以前、記事「説明している出入口は門でなく戸口」と「中途半端に終わった拝謁シミュレーション」で、新倉真由美が中庭を指すcourを「宮廷」と訳すくせに触れた。ここで取り上げたのは、私の目に入った残りの1つ。

原文で赤絨毯にpremier(最初の)が付いているのは、中庭に着いた訪問者が中庭を通過するため。中庭には当然ながら絨毯は敷かれておらず、建物に戻るときに2番目の赤絨毯が始まる。このいきさつは、この部分の少し後の部分を取り上げた「中途半端に終わった拝謁シミュレーション」で説明してある。

courを「宮廷」と解釈すると、「最初の赤絨毯」をうまく説明できない。宮廷に入る前に赤絨毯が敷かれているなら、宮廷に入った後もずっと敷かれているだろう。だから2番目の赤絨毯が存在しなくなる。

新倉真由美の「courは宮廷」説を補強するpremierの省略

この部分での新倉真由美の文は、courを「宮廷」とした以外は、原文との差がそれほど大きくない。

  1. 「最初の(premier)」が抜けている
  2. 「段差(marches)」が「扉」になる

そのわりに私がここを気にしているのは、「最初のレッドカーペットは宮廷まで敷き詰められている」よりは「レッドカーペットは宮廷まで敷き詰められている」のほうがまだもっともらしく見えるから。「courは宮廷」説を維持するために意図的にpremierを訳さなかったのではないかと、つい勘ぐってしまう。もっとも、新倉真由美が分厚いこの本を訳すとき、そこまで細かく考える余裕はなかったろうとは思う。

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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