伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

今ごろ気づいたゴーリンスキー記事の文法解釈間違い

初期の「密なる時」記事は段落分けしかない長文が多く、読む気が失せがちです。構文解釈が長くなるのは仕方なくても、段落の分け方を見直すとか、各種タグで見た目に変化を付けるなどして、もう少し取っつきやすい文面にする余地はあると思います。それで最近、サンドル・ゴーリンスキーを題材にした指摘記事を大幅に手直ししましたが、そのとき文中の"il fallait"(必要だった)について、以前書いたことを読みました。段落を丸ごと書きます。

関係節の主語il(彼)はもちろんヌレエフ。「周囲の人間」のようなあいまいな存在を指すには代名詞onを使うのが普通。複数形の代名詞nous(私たち)やvous(君たち、あなたたち)やils(彼ら)は不特定の人々を指すこともあるが、単数形のilにそういう用法はなさそう。

…いやいやいや、"il faut ~"(~が必要である)は非人称代名詞のilのありふれた用法(原文がfallaitなのは時制の違い)。ilはそもそも人ではないので、特定の人か不特定の人かを熱く論じたのがすっかり空振りです。誰にとって必要だったのか、原文には書かれていません。

せめてもの幸いは、完成した訳文には影響が及ばなかったこと。はっきり「彼には必要だった」とは書かなかったし、原文は「彼は必要としていた」という解釈でも破綻しないので。

それでも、こんな初歩的な間違いをするとは恥ずかしい。新倉真由美が文法無視で単語を好き勝手に組み合わせるのをさんざん糾弾している手前、私自身は単語が文の中で果たす役目をきっちり把握しなければ立場がありません。しかも『密なる時』に手を広げた最初の記事だということに余計にがっかりです。原本を買ったのもあそこが何より気になったからなのに、出だしでいきなりしくじっていたとは。

記事を書き換えた結果、ilについて書く場所がなくなったので、間違いは修正する前に消失した感じです。でもフランス語学習歴4年未満の私に油断は禁物ということを肝に銘じるため、ここに記録しておきます。

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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