伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

四千よりは少ない数の照明

『バッキンガム』P.47:
一二〇個の電話が宮殿中に備えられ、四〇〇〇以上の照明器具が宮殿内を照らしている。
Meyer-Stabley原本:
Deux cent cinquante téléphones sont éparpillés d'un bout à l'autre du palais ; plus de quatre mille ampoules illuminent chandeliers, suspensions et autres moyens d'éclairage.
Telperion訳:
250台の電話が宮殿の隅々まで分散し、4千個を超える電球がシャンデリアやペンダントやその他の照明手段を輝かせる。

宮殿の日常的なメンテナンスを述べた段落の一部。

仏文和訳

1番目の文

原文の1番目の文はセミコロンまでの部分。電話の数が違う以外は、特に言うことはない。

2番目の文

セミコロンの後に続く原文の2番目の文は、「主語 + 述語 + 目的語」という単純な構文。

主語
plus de quatre mille ampoules (4千個を超える電球)
述語
lluminent(輝かせる、照らす)
目的語
chandeliers, suspensions et autres moyens d'éclairage (シャンデリア、ペンダント、およびその他の照明手段)

ただし、「目的語 + 述語 + 主語」という倒置文として解釈することも文法上は可能。しかしその場合、和訳は「照明手段が電球を輝かせる」となり、実際にはありえない意味。普通の語順の「電球が照明手段を輝かせる」なら、照明器具におびただしい数の電球を使っているという意味になり、理にかなう。

電球と照明の違い

バッキンガム宮殿で電球が最も使われる照明器具は、やはりステート・ルームのシャンデリアだろう。googleで「state rooms buckingham」をキーワードに画像検索すれば、シャンデリアの豪華さはうかがえる。照明数に比べて電球数は8倍は超えそう。だから宮殿の照明の合計数は電球の合計数より数百は少ないだろう。

Meyer-Stableyが照明でなく電球の数に言及した理由は、電球のチェック・交換は日常的なメンテナンス作業のうちだからだろう。照明の数より電球の数を書くほうが、「それだけ管理するのは大変だろう」と実感しやすい。

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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