伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

一番年下でないアンドルー王子

『バッキンガム』P.46:
宮殿に住んでいる子どもたちはここにやってきて数時間を過ごす。一番年下のアンドリューは塩を入れて遊んでいた。
Meyer-Stabley原本:
Les enfants du personnel résidant au palais y ont accès à certaines heures. Plus jeune, Andrew s'est bien sûr amusé à y verser des sels de bain,
Telperion訳:
宮殿に住む職員の子どもたちは、数時間ここに自由に入れる。幼いころのアンドルーはもちろん、そこにバス・ソルトを注ぎ込むのを楽しみ、

宮殿に隣接するプールについて。

新倉真由美が「一番年下の」と訳した"plus jeune"は、形容詞の比較級「もっと若い」。もっと若いアンドルーとは、子どもだった頃のアンドルー。最上級「最も若い」になるには、定冠詞leが"plus jeune"の前に付く必要がある。

形容詞の比較級と最上級の違いに無頓着だったとしても、「一番年下のアンドルー」という解釈には奇妙な点が2つある。

  1. プールに入れる子どもたちは、原文では明確に"les enfants du personnel"(職員の子どもたち)と書かれている。その後で「一番年下の」と呼ぶと、「職員の子どもたちのなかで一番年下の」という含みが生まれるが、職員の子でないアンドルーをそうは言わないだろう。
  2. アンドルーは女王の4人の子のなかで3番目。新倉真由美は末のエドワードが生まれる前を想定しているのかも知れないが、年齢を限定するための表現としては回りくどいと思う。

なお、アンドルーがプールに入れていた"sels de bain"は、単語を英語に置き換えると"salts of bath"となるので、バス・ソルトだと見当が付く。実際、ラルース仏語辞典にも載っている。

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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