伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

50年以上踊りを教え、その40年後に健在?

『ヌレエフ』P.29-30:
五〇年以上多くの子どもたちに踊りを教えてきたが、
Meyer-Stabley原本:
en cinquante ans passés à observer les enfants et à leur enseigner la danse
Telperion訳:
子どもたちを観察し、踊りを教えて過ごした50年間で、

ヌレエフの生涯最初のバレエ教師となるアンナ・ウデルツォーワについて。

新倉真由美の文では"observer les enfants"(子どもたちを観察し)が抜けている。不注意なのか、字数削減のためかは分からない。しかしこの省略のせいで、この文はありえない内容になっている。

ウデルツォーワが40年後の1989年、ヌレエフがキーロフで客演した「ラ・シルフィード」公演に100歳で出席することは、伝記『Nureyev: His Life』(Diane Solway著)や『Rudolf Nureyev: The Life』(Julie Kavanagh著)に記されている。ヌレエフと出会った1949年当時のウデルツォーワ(Solwayの伝記によると61歳)が、その50年前から踊りを教えるのは無理。だから「子供たちを観察し」は必要。

Meyer-Stableyはヌレエフ幼少時にはウデルツォーワを姓だけで呼び、1989年のキーロフ公演時には名前Anna Ivanovnaとだけ呼んでいる。この本を読むだけでは二人が同一人物だと分からず、Meyer-Stableyが説明不足なのは否めない。それでも、原文通りに訳せば間違いではない記述を、他の資料に当たれば間違いだと分かる記述に変えるのは、本の価値を下げる行為であり、するべきではない。

キーロフ公演でのウデルツォーワをMeyer-Stableyがあいまいに記述したことと関連する、もう一つの翻訳間違い
P.284 パートナーを務めたアンナ・イワノワ(「三日月クラシック」より)

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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