伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

個人の例でなく一般論としての入口使用

『バッキンガム』P.41:
ジョージ六世の侍従ピーター・タウンゼントはその地位と使用できる身分の規定によって〈バックハウス〉のいくつもの出入口の使用を認められていた。
Meyer-Stabley原本:
Peter Townsend, l'écuyer de George VI, admit que l'accès aux diverses entrées de « Buck House » était déterminé par le rang et le statut de l'usager :
Telperion訳:
ジョージ6世の侍従ピーター・タウンゼントは、「バック・ハウス」の各種入口に行くのは、利用者の地位と身分によって決められていると認めた。

「認めた」と「認められた」の違い

主文の述語admitは動詞admettre(認める)の直説法単純過去形であり、能動態の「認めた」。「認められた」の場合は受動態なので、admitでなく"fut admis"になる。

"admettre que ~(文)"は「~だと認める」。この場合の「認める」とは、「許可する」ではなく「正しいと判断する」「受け入れる」。

タウンゼントが認めたこと

"admit que"の後のl'accèsから文末までは、タウンゼントが認めたことを述べる文。この文は受動態。

l'accès aux diverses entrées de « Buck House »
文の主語。意味は「『バック・ハウス』への各種の入口へのアクセス」。BuckはBuckinghamを短くした形なので、"Buck House"はバッキンガム宮殿のくだけた言い方らしいと想像できる。
était déterminé
文の述語。意味は「決められていた」。時制が直説法半過去なのは、タウンゼントが認めたときと同じ時点についての説明だから。つまりタウンゼントにとっては、「決められている」という現在のこと。
par le rang et le statut de l'usager
意味は「利用者の地位と身分によって」。parは英語のbyと同様、受動態の動作主を示す。usager(使用者)はあくまで人物を指す言葉。

「各種入口へのアクセスが利用者の地位と身分によって決められる」とは、利用者がどの入口を使えるかは地位と身分に応じて異なるという意味。

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

プロフィール

Telperion

Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

カテゴリ
最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
タグ

マーゴ・フォンテーン エリック・ブルーン ノートルダム・ド・パリ パトリック・デュポン マリア・トールチーフ ミック・ジャガー 

全記事表示リンク

全ての記事を表示する