伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

鳥瞰図で地面すれすれを見る?

『バッキンガム』P.44:
鳥瞰図で見ると、バッキンガム宮殿は実際地面すれすれに真四角に見える。経験の浅い従僕には、立方体のラビリンスの迷宮のように見えたのだろう。
Meyer-Stabley原本:
À vol d'oiseau, le palais de Buckigham ressemble, en effet, à un carré ; à ras du sol, tel que le voit un valet inexpérimenté, le carré devient un cube, une architecture labyrinthique.
Telperion訳:
上から見たバッキンガム宮殿は、実際に正方形に似ている。不慣れな召使が見るように地面の高さからだと、正方形は立方体になり、迷宮のような建築になる。

2つの視点の対比

2つの文がセミコロンで区切られている。"à ras du sol"(地面すれすれで)は第2文の冒頭にあるので、第1文の「正方形に見える」でなく第2文の「正方形が立方体になる」を修飾している。

第1文の冒頭の新倉真由美訳「鳥瞰図で見ると」からは、宮殿の図面を見ている印象を持つかも知れない。しかし、不慣れな召使が地面のすぐ上で宮殿を見る様子を述べた第2文と対比しているのだから、第1文も宮殿を直接見る様子を述べていると考えられる。実際、「鳥瞰図」に当たるフランス語は"perspective à vol d'oiseau"であり、"à vol d'oiseau"は「上空から見て」。

つまり原文は「宮殿は上から見ると正方形、横から見ると立方体に見える」という意味になり、理にかなう。

新倉真由美の文の不自然な点

  1. 鳥瞰図とは上から見た図。地面すれすれの様子を見るために鳥瞰図を持ち出すのはとても奇妙。
  2. 実害はないが、「ラビリンスの迷宮」も奇妙な表現。ラビリンスの日本語訳として最も広まっているのは「迷宮」だと思うのだが。「迷宮の迷宮」とは?

新倉真由美がセミコロンに無頓着な例

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

プロフィール

Telperion

Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

カテゴリ
最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
タグ

マーゴ・フォンテーン エリック・ブルーン ノートルダム・ド・パリ パトリック・デュポン マリア・トールチーフ ミック・ジャガー 

全記事表示リンク

全ての記事を表示する