伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

新倉本『ヌレエフ』の不自然さ - このブログより

新倉真由美による訳本『ヌレエフ』のあちこちにある矛盾や意味不明さのうち、少ない行数で説明できるあからさまなものは、ブログ開設前に「三日月クラシック」のコメントとして投稿しました。それらについては2回に分けて書きました(前編後編)。一方、このブログで扱っているその種の個所は、だいたいが次のどちらかに当たります。

  1. 前後を含めて通し読みするとあからさまに変だが、誤訳そのものだけを取り出すとそれほど変に見えない
  2. つい読み飛ばしがちだが、真剣に読むと、意味が通っていないことに気づく

新倉本がどんなに意味不明かを素早く把握するには、「三日月クラシック」にある例のほうが分かりやすい。ですが、1番目に当たる個所だって、通し読みしていて頭が混乱するのは同じです。そこで、新倉真由美訳のせいで意味がとおらない個所について書いた記事を並べてみます。新倉本を初めて読んでから3年以上になるので、当時の気持ちを正確には覚えていませんが、だいたい次のようになるかと思います。

新倉本を読んだ当初からわけが分からなかった個所

  1. 亡命時のヌレエフをロゼラ・ハイタワーは見なかった
  2. 数百万人のロシア人や中国人がいるソ連?
  3. ポッツがヌレエフと別れた理由
  4. ヌレエフのパトリック・デュポン評
  5. 最初の不協和音の前にスト?
  6. 暗に世代交代をほのめかすマスコミ
  7. 記者をからかうヌレエフに好意的な原著者
  8. 何も教えようとしない真の教師?
  9. 初日を踊ることの重さ
  10. 写真から受ける印象と実際のずれ

新倉本を読み返すうちに疑念を抱くようになった個所

  1. 1人の風貌と存在感がコントラストをなす?
  2. 新入生がキーロフに出演?
  3. 同じなのは3作のうち1作だけ
  4. まず答えてから質問?
  5. 一般人が刑事を雇う?
  6. 急な登板を予定と呼べるか
  7. ヌレエフの一時帰郷の日程改変
  8. ダンサーは政府の答弁を予習するか
  9. 振付家が作家を選択する権利は異例か
  10. ロゼラ・ハイタワーに対して謙虚なヌレエフ
  11. ヌレエフとクララ・サンの「石の花」鑑賞
  12. tour(一周)とtournée(巡業)
  13. FBIの捜査があったという証拠
  14. 話題を監督業から闘病に切り替える文

多くの例を振り返って

こうして一気に読み返すと、私が新倉本を買った当時にどれほど当惑したかが思い出されます。手っ取り早くヌレエフの生涯やいろいろなエピソードを知ることができるつもりでいたのに、「それじゃ理屈に合ってない」「どうしてこんな文が出てくるのか分からない」と疑問が山積み。各文章がつながっていないので、別々な絵から取ってきたジグソーパズルのピースがごちゃごちゃしているような印象で、一枚の絵を形作っているようには見えませんでした。

新倉本を買った2011年2月20日から3日後、私はamazonにDiane Solway著『Nureyev: His Life』を発注しています。新倉本を買う前から私はSolwayの伝記に目星をつけていたのでしょう。しかしこのタイミングでの発注ということは、それだけ「この本ではヌレエフのことは分からない」という危機感が強かったのでしょうね。「三日月クラシック」に寄せた初指摘を読み返す限り、2月の私はパリ・オペラ座バレエに関することを多少知っている程度で、事実と違う記述に気づく力はほとんどなかったはずなのに。

「読み返すうちに疑念を抱くようになった」に分類したものには、新倉本への不信感が高まらなければ読み流したかも知れないものも多くあります。でも、いったん気づくと気になります。原本チェックしたい個所が次々出るのも、私が原文比較に熱心になる動機になりました。

しかし、訳文が露骨に変で原文を読みたくなる個所は、すぐさま眉に唾を付けたくなる分、誤訳を守るために原文を書き換えた疑惑 (1)で書いたようなことをされるよりはましですね。ヌレエフ像のねじまげも、多くは新倉本だけではおかしいと気づかない記述でしたし。

更新履歴

2014/5/14
「三日月クラシック」に寄せた初コメントによると、私が海外伝記を本気で探し始めたのは新倉本を買った後なので、それに応じて取り消し線を引く

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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