伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

バヤデールへの刺客は踊っていたか

『ヌレエフ』P.308:
嫉妬深いガムザッティはバヤデールと争い、踊りながら花びんを捧げ、なかに忍び込ませた蛇で彼女を殺害するという王とバラモンの卑劣な企てを受け容れてしまう。
Meyer-Stabley原本:
Jalouse, Gamzatti en viendra aux mains avec la bayadère. Et finira par accepter le sordide plan du rajah et du brahmane : tuer l'indésirable en glissant un serpent dans une corbeille de fleurs qu'on lui offrira au cours de sa danse.
Telperion訳:
嫉妬したガムザッティはバヤデールとつかみ合いになる。そしてついには、望ましからざる人物を殺すため、花かごに蛇をすべりこませ、彼女が踊る途中で贈るという、王とバラモンの卑劣な計画を受け入れる。

ヌレエフが生涯最後に全幕版を作った「ラ・バヤデール」のストーリー。

殺害決行時に踊っているのはバヤデールで、そこに無名の人物が毒蛇入りの花かごを渡す。「ラ・バヤデール」はヌレエフ版初めいくつもDVDが発売されており、確認はきわめて易しい。原文でも、花かごを贈るのはon(不特定の人)と書かれている。新倉真由美の表現では、まるでガムザッティが刺客であるかのよう。

大僧正は殺害計画に加担していなかったように思うのだが、Meyer-Stableyにも誤解があるのだろうか。

更新履歴

2013/5/5
コメント欄でのご指摘を受け、主張する意志が弱くなったので、大僧正の殺害加担に関する記述に取消線を引く。

コメント

大僧正が加担していなかったら、都合よく毒消しを持っているはずがないでしょう。

大僧正のスタンス

コメントありがとうございます。もちろん大僧正は王がニキヤを殺すことにしたのを知っており、「自分のものにならないなら殺されても構わない」と思っていました。しかもニキヤに毒消しをちらつかせるほど便乗したのだから、加担と呼んでも構わないような気がしてきました。

Meyer-Stableyの文に私がひっかかったのは、殺害首謀者として王と大僧正を並べていることです。殺害に向けて積極的に行動したのは王であり、大僧正は黙認・便乗したとはいえ、王と同等の首謀者(刑法では共同正犯と言うのでしたっけ)ではないのではないかと。でも大僧正が王に告げ口するあたりはマイム主体なので、どうとでも取れるのかも知れません。日本語wikipediaのラ・バヤデールのページでは、ニキヤ殺害はガムザッティの発案になっていますし。

上の内容を投稿しようとしたら、「不正な投稿と見なされました」エラーを食らいました。「おまかせ禁止ワード」設定の仕業ではないかと思い、オフにしました。投稿するとき不都合がありませんでしたか?

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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