伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

実在しないキーロフ市

『ヌレエフ』P.72:
特にキーロフ市内では他の地域以上にお互い監督し合うよう奨励されていた。ルドルフは格好な標的のひとりであり続けたのだ。
Meyer-Stabley原本:
Au Kirov encore plus qu'ailleurs, le système encourage les gens à se surveiller les uns les autres. Rudolf constitue donc une cible parfaite.
Telperion訳:
キーロフでは他の場所よりも、人々が互いに監視しあうように仕向ける体制だった。それゆえ、ルドルフは申し分ない標的になった。

訳本を読むだけで分かることだが、キーロフとはレニングラード市内のキーロフ劇場、または劇場付属のキーロフ・バレエ。ヌレエフの生涯を語る際にキーロフ市という場所は出てこない。「市内」という余計な言葉が印刷段階で入り込む(つまり誤植)よりは、原稿にすでに書いてあった可能性のほうが、私には高そうに思える。もっとも、いくらなんでも『Noureev』に目を通した新倉真由美が本気でキーロフを都市だと思い込むとは考えにくく、筆が滑ったほうがありえそう。

それでも、「こんなことを書いたのはいったい新倉真由美とMeyer-Stableyのどちらだよ」と思いたくはなるので、明記しておく。フランス語では都市名に定冠詞を付けないのが一般的。原文の"Au Kirov"は"À le Kirov"の縮約形なので、Kirovには定冠詞leが付いている。つまり、Meyer-StableyはKirovを都市名としては扱っていないことになる。

constituer(構成する)とcontinuer(続ける)

第2文は無害なケアレスミスと言ってもいいが、この記事の分量は少ないのでついでに書いておく。原文の述語である動詞constituerは「~となる、~を構成する」。「続ける」に相当するフランス語はcontinuer。

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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