伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

最初のバレエ教師は民族舞踊を教えていない

『ヌレエフ』P.29:
ウダリツォーヴァは彼にホパックやレジンカなどさまざまな民族舞踊の動きを練習するように言い、彼はそれらを完璧に言われるがままに踊った。
Meyer-Stabley原本:
Oudeltsova lui demande d'exécuter une gopak, une lesguinka et divers pas forkloriques qu'il connaît à la perfection. Il obéit,
Telperion訳:
ウデルツォーワは彼に、ゴパックやレスギンカ、完璧に知っているさまざまな民族舞踊のステップを実演するよう求めた。彼は従い、

11歳のヌレエフが元バレエ・ダンサーのアンナ・ウデルツォーワに才能を見出されるときのこと。この後、ウデルツォーワはヌレエフの生涯初めてのバレエ教師となる。

求めたのは練習でなく実演

ヌレエフの踊りの腕前を見るためにウデルツォーワが求めたのは、民族舞踊をexécuterすること。動詞exécuterの意味は、「実行する、実演する」などであり、「練習する」という意味はない。新倉真由美はexécuterをs'execer(練習する)と見間違えたのではないかと私は想像している。

新倉真由美の訳では、ウデルツォーワがまず民族舞踊をヌレエフに教えたように見える。しかし実際には、ウデルツォーワはヌレエフがその時慣れ親しんでいた踊りをさせたのだろう。

原著者のミス - 巻末年表でのウデルツォーワの項

もっとも、Meyer-Stableyは巻末の年表で"étudie les danses folkloriques avec Mme Oudeltsova."(訳本では「ウダリツォーヴァ夫人に民族舞踊を習う」)と書いている。新倉真由美はあるいはこの年表に引きずられたのかも知れない。以下の理由で、私は年表のほうが間違いだと思う。

  • 他の伝記を読む限り、ウデルツォーワは民族舞踊は教えていないように思える。
  • ウデルツォーワへの師事には、ヌレエフが初めてバレエを習ったという意義がある。民族舞踊は幾人もの教師からすでに習っているのだから、ウデルツォーワから習ったとしても、年表に載るべきイベントではない。

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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