伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

母国のヌレエフに同行する通訳とは

今回は原本の間違いと思しきことについて。

『ヌレエフ』P.281:
ボディーガードとおかしなことに通訳に伴われ、
Meyer-Stabley原本:
Accompagné d'un garde du corps et (curieusement) d'une interprète, Jeanine Ringuilt,
Telperion訳:
ボディガードと(奇妙なことに)通訳のジャニーヌ・リンギルに伴われ、

26年ぶりにソ連に入国したヌレエフがモスクワで飛行機の乗り換えを待っていたときの同行者について。ソ連生まれのヌレエフがソ連で通訳を連れている、確かにおかしなことです。私は初めて読んだとき、「ソ連生まれであっても今では外国人同然だ」というソ連当局の当てつけとして通訳が押し付けられたのかと思いました。次に訳本の間違いを疑いましたが、原本でもinterprète(通訳)という記載でした。その謎を解く鍵となったのは、原本にある通訳の名前、Jeanine Ringuiltでした。

『Nureyev: The Life』(Julie Kavanagh著)より
Janine Ringuetなる人名が載っています。1960年当時、フランスとソ連の文化交流を専門にするパリの組織で働く"assistant impresario"であり、ヌレエフの才能を見込んで1961年にヌレエフのパリ行きを実現させたそうです。1987年のヌレエフのソ連行きにも同行しました。
『Nureyev: His Life』(Diane Solway著)より
このソ連行きの同行者の一人としてJeanine Ringuitという名があります。キーロフとともにパリで過ごした最初の頃に会った、ロシア語を話すimpresarioという説明です。

impresarioのしっくりくる日本語訳は分からないのですが、公演のプロデューサーらしいです。ソ連の芸術家の招待公演を手配するのを仕事にしているなら、ヌレエフと知り合いでソ連に馴染みがあり、ソ連まで同行するのもうなずけます。

Kavanagh本とSolway本で触れられる同行者と似た名前の通訳…これって、Meyer-Stableyがimpresarioとinterprète(通訳)を読み違えたんですよね?ソ連でヌレエフに通訳が付くのは意味がなさすぎるし、そんな似た名前の二人がたまたま同時にヌレエフに同行なんて、確率低すぎです。

似たような単語を読み間違えるのは、新倉真由美が何度もしていますが、Meyer-Stableyもするんですね。人名や作品名などでは時々見かけますが、普通名詞で気づいたのは今のところこれだけです。

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

プロフィール

Telperion

Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

カテゴリ
最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
タグ

マーゴ・フォンテーン エリック・ブルーン ノートルダム・ド・パリ パトリック・デュポン マリア・トールチーフ ミック・ジャガー 

全記事表示リンク

全ての記事を表示する