伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

尉官は下級兵士か

『ヌレエフ』P.12:
砲兵隊に配属され、家族の運命はその異動にかかっていたが、結局下級兵士のままだった。
Meyer-Stabley原本:
Il est attaché à un bataillon d'artillerie et, jusqu'à la déclaration de guerre, le sort de sa famille va dépendre des déplacements de son bataillon - mais il reste un gradé subalterne.
Telperion訳:
砲兵大隊に配属され、開戦まで家族の運命は大隊の移動にかかることになる。が、彼は尉官のままだった。

ヌレエフの父ハメットの軍人としての地位について。

階級は下級兵士より高い

ハメットは第二次世界大戦の前線に中尉として赴くので(訳本P.15)、開戦時には少なくとも少尉だったはず。戦中には大尉に昇進する。下級兵士というほど低い階級ではない。「尉官」に相当するフランス語は"officier subalterne"だが、原文の"gradé subalterne"も同様の意味と思う。

ハメットの異動でなく大隊の移動

"des déplacements de son bataillon"は「彼の大隊の移動」。「家族の運命が大隊の移動にかかる」とは、ハメットの赴任地が妻子にとって一番の関心事だったということ。母ファリダが身重の体で3人の子を連れてシベリア横断鉄道に乗るくらいだから、家族が一緒にいるというのは大事なことで、階級だけが問題ではなかったはず。

述べているのは第二次世界大戦前のこと

原文で「開戦まで」(jusqu'à la déclaration de guerre)とあるのは、第二次世界大戦の開戦後、ヌレエフ一家の暮らしが激変したから。夫は遠くの前線に送られ、妻子とは何年も会えなくなり、残された妻子も生き抜くためのつらい暮らしを強いられる。

更新履歴

2014/2/5
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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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