伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

舞台では自分が一番

『ヌレエフ』P.162:
過小評価する人たちに対しては躊躇せず怒りをぶつけた。
Meyer-Stabley原本:
il ne se prive pas de s'emporter contre ceux qui ne le mettent pas assez en valeur.
Telperion訳:
自分を十分よく見せない者たちにはためらわず怒りを覚えた。

ヌレエフの「自分が舞台に登場するときは注目を集めなければならない」という熱弁が引用されるすぐ前の文。

原文にある"mettre ~ en valuer"は「~を利用する、~をよく見せる」というイディオム。ここで「彼を十分利用しない者たちに怒りを覚えた」では意味をなさないので、「彼を十分よく見せない者たちに~」のほうが正しい。実際、後の熱弁に続けるには「よく引き立ててくれない」のほうが望ましい。

『密なる時』にもある同じ誤解

イディオム"mettre en valuer"はプティの『Temps Liés avec Noureev』で2個所見かけた。どちらも「よく見せる」の意味で使われている。一方新倉訳『ヌレエフとの密なる時』では、先に出たほう(記事「ヌレエフの公演を引き立てるための友人」)は「評価する」、後にでたほう(「『ヌレエフと仲間たち』プログラムの特徴」)は「利用し引き立てる」。どうやら新倉真由美はイディオム"mettre en valuer"を「評価する」という意味だと早合点しがちらしい。ただし『密なる時』2番目の個所では仏和辞書を調べた形跡があるが、さかのぼって1番目の個所を修正するには至らなかった模様。

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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