伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

父の不存在と昇進

『ヌレエフ』P.19:
じきに大尉となるはずのハメットは家族にたくさんの手紙を送った
Meyer-Stabley原本:
Hamet, promu capitaine, envoie de rares missives aux siens.
Telperion訳:
大尉に昇進したハメットは、たまに手紙を家族に送った。

出征したヌレエフの父ハメットと妻子との交流について。

手紙の頻度

rareの意味は「数少ない」「めったにない」など。この時期、父と子の結びつきはないも同然だった。実際、Meyer-Stableyはこの次の文で"l'absence de relation entre le père et le fils (父と息子の間の関係の欠如)と書いているし、新倉真由美はそれを「父親と息子の長い間の音信不通」と訳している。

ハメットの父の地位

promuは動詞promouvoir(昇進させる)の過去分詞で、「昇進した」。ハメットはこの時点で大尉になっている。だからこそ戦後の降格につながる。

動詞promettre(約束する)の過去分詞はpromisで、「約束された」。あるいは新倉真由美は、promuがpromettreの過去分詞だと思ったのかも知れない。

更新履歴

2014/2/2
promettreへの言及を始めとする追記

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Telperion

Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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