伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

命を得たのはヌレエフのイメージであってプティではない

『密なる時』P.27:
私の魂は彼によって稲妻に打たれたような衝撃を受け、それは私に確かな生気を与え、数々の思い出を眩いばかりに光り輝かせた。
プティ原本:
Mon esprit est frappé par certaines images fulgurantes qui prennent vie avec précision et illuminent mes souvenirs.
Telperion訳:
私の精神に強い印象を刻んだ閃光のようないくつかのイメージは、正確に命を宿し、私の思い出を輝かせる。

"certaines images fulgurantes"(閃光のようないくつかのイメージ)を関係節"qui prennent vie avec précision et illuminent mes souvenirs"(正確に命を得て、私の思い出を輝かせる)が修飾している。関係節で使われている表現"prendre vie"は、直訳「命を得る」から想像するとおりの意味だろう。実際、別の場所で使われている"prendre vie"を新倉真由美はそのように解釈している。

プティ原本:
C'était parti : Le Paradis perdu, d'après Milton, prenait vie.
『密なる時』P.21:
それはミルトンによる詩『失楽園』からヒントを得たもので、創作の幕が切って落とされ、徐々に生命が吹き込まれ仕上がっていった(注4)。

そういうわけで、生を受けたのはプティでなく、ヌレエフのいくつかのイメージ。それが命を持つというのは、プティがはっきり覚えているということの詩的な表現なのだろう。

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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