伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

新倉本『ヌレエフ』の固有名詞ミス

訳本『ヌレエフ』にある耳慣れない名前が日本語でほとんど話題にならない人や物なのか、それとも誤植のせいで生まれた架空の名前なのか、訳本を読むだけでは区別が難しい。原本にある固有名詞ミスと対比させる意味でも、訳本独自の固有名詞ミスを列挙してみたいと前から思っていた。

ただ、原語に対する日本語表記は一つとは限らず、許容できる表記かどうかの線引きはなかなか難しい。私自身、ネットで最も見かけるのとは違う表記を「これでも分かるだろう」と採用することがある(クロード・ブリアリーとか)。それに私は言語の発音規則に疎い方で、名前の読みに自信がないことは珍しくない。そのため、私がここで取り上げるのは、以下の条件を満たすものに限定した。

  1. ある日本語表記をgoogleで検索したとき、その名が指すべきものに関する文がそれなりにヒットする。
  2. 訳本表記をgoogleで検索したとき、その名が指すべきものに関する文がほとんどヒットしない。

なお、原本の固有名詞ミス一覧と同じく、この一覧は常に未完成であり、今後追加することもあるかも知れない。

過去触れたことがなかった不適切な表記

訳本ページ訳本原本よくある日本語表記
39アサフ・アメッスルAsaf Messererアサフ・メッセレル
73コスタコヴィッチChostakovitchショスタコーヴィチ
162アッテイオ・ラビスAttilio Labisアティリオ・ラビス
181セシル・ブルトンCecil Beatonセシル・ビートン
218グレン・テリーGlen Tetleyグレン・テトリー
256ミシェル・ドナールMichael Denardミカエル・ドナール
266マギー・マリンMaguy Marinマギー・マラン
266ダニエル・エツラローDaniel Ezralowダニエル・エズラロウ
274アニー・ザンArnie Zaneアーニー・ゼイン
283, 284オレグ・ビノグラノフ/ビノグラフOleg Vinogradovオレグ・ヴィノグラードフ

過去記事や『三日月クラシック』で書かれている不適切な表記

※付きの行は「三日月クラシック」のミナモトさんが怪しい部分まとめ記事で指摘したもの。

訳本ページ訳本原本よくある日本語表記
73ヴァローシフVorochilovヴォロシーロフ
136チュリンジーンズTurin, Gênesトリノ、ジェノヴァ
176バイロイトBeyrouthベイルート
193, 247マンシーニ、マッシーニ※Massine(レオニード・)マシーン
218, 295フレミング・フリンジFlemming Flindtフレミング・フリント
239マイケル・フィリップ※Michelle Phillipsミシェル・フィリップス
266トワイライト・サープ※Twyla Tharpトワイラ・サープ
266ランシーヌ・ランスローFrancine Lancelotフランシーヌ・ランスロ
295ゴダールGogolゴーゴリ

トワイライト・サープはよくある誤記らしいが、google検索結果からはトワイラ・サープが正しいと分かりにくいので、上記の条件に外れるがあえて入れた。

感想

私がバレエ関係の人名を優先して調べたため、上記の大半が振付家やダンサーの名前。ミスの重さ軽さはさまざまだが、私が「バレエ書籍でこの表記は初心者を惑わせる」と一番思うのは、イタリア人扱いされたバレエ・リュスのレオニード・マシーン。バレエの歴史上でバレエ・リュスは有名だし、ヌレエフもパリ・オペラ座バレエもバレエ・リュスには敬意を払っているのに。ドナールのファーストネームだって、70~80年代のパリ・オペラ座バレエに馴染みがあれば、ミシェルとは呼ばないのではないだろうか。

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プロフィール

Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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