伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

用途が不明確な手紙に署名? (続)

『密なる時』P.78:
そう、ヌレエフと私の間では数々の侮辱の言葉が飛び交い戦争が勃発したことは否めない。がしかし、この悪趣味極まりない裏切り者のメッセージにどうして踊らされてしまったのだろう。パリ・オペラ座におけるヌレエフの運営方針を攻撃したこの手紙は、日刊紙に送られて記事になるかも知れない。それも決してちっぽけな新聞ではないのだ。
プティ原本:
Oui, comment malgré les insultes et la guerre déclarée entre Noureev et moi, ai-je pu me laisser aller à participer à ce message perfide et de mauvais goût, envoyé pour être imprimé à un quotidien, et pas le moindre, attaquant la gestion de Noureev à l'Opéra de Paris ?
Telperion訳:
そう、ヌレエフと私の間で宣言された侮辱と戦争にかかわらず、この不実で悪趣味で、日刊紙、それも大手で印刷されるために発送され、パリ・オペラ座でのヌレエフの采配を攻撃するメッセージに参加するように流されることが、どうして私にできたのか?

記事「用途が不明確な手紙に署名?」で引用した部分の次の文。

"ce messege"(このメッセージ)、つまりベジャールとプティの連名公開書簡を修飾する語句は次のとおり。

  1. perfide(裏切りの)
  2. de mauvais goût(悪趣味な)
  3. envoyé pour être imprimé à un quotidien(日刊紙で印刷されるために発送された)
  4. attaquant la gestion de Noureev à l'Opéra de Paris(パリ・オペラ座でのヌレエフの采配を攻撃する)

「印刷されるために発送された」とは事実の断定であり、「送られて記事になるかも知れない」というあいまいさはない。前の文と同じく、この訳文のプティも手紙の利用法を知らないかのような口ぶりだが。

プティの批判対象の紛らわしさ

新倉真由美訳の「この悪趣味極まりない裏切り者のメッセージ」を読むと、プティがベジャールを悪趣味極まりない裏切り者と呼んでいるようにも見える。しかし"de mauvais goût"(悪趣味な)やperfide(裏切りの)は手紙を形容する言葉であり、人物を指してはいない。いくらプティが責任の大半をベジャールに押し付けているとはいっても、ベジャールを直接罵倒はしていない。

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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