伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

マリー=エレーヌ・ド・ロスチャイルドとヌレエフは仲が良かった

『ヌレエフ』P.200:
夫人はすぐに彼を取り巻きの一人にした。
Meyer-Stabley原本:
La baronne en a fait rapidement l'un de ses intimes.
Telperion訳:
男爵夫人はたちまち彼を親しい友の一人にした。

マリー=エレーヌ・ド・ロスチャイルドとヌレエフの交友について。

intimeは英語intimateとつながりがある言葉で、ここでは名詞「親友、腹心」。ところが、新倉真由美の訳語「取り巻き」は、私の手持ちの国語辞書2冊にはこう載っている。

『デジタル大辞泉』より
金持ちや権力者につきまとって機嫌を取ること。また、その人。
『新明解国語辞典第5版』より
一時得意の絶頂に在る人にまつわりつき、幇間のような所業をして、なにがしかの利益を得ようとする人たち。

とても「親友」から置き換えられる言葉ではない。新倉真由美は「ヌレエフはロスチャイルド家の一員たるマリー=エレーヌから利益を得るためにご機嫌を取り、マリー=エレーヌもそれを承知で受け入れた」と述べているに等しい。

Meyer-Stableyはヌレエフに関する談話の主を親しい人(procheとかintimeとか)と呼ぶ癖があり、「ほんとうに親しいのか?」と疑問に思うこともよくある。しかし、この2人は本当に仲が良かったのだろう。

  • 引用部分の近くには「(マリー=エレーヌはヌレエフに)最後まで忠実だった」とある。
  • プティは『ヌレエフとの密なる時』P.42で、ヌレエフの親しい女友達の1人としてマリー=エレーヌの名を挙げ、生前エイズ疑惑を否定していたヌレエフがマリー=エレーヌには打ち明けていたとまで書いている。

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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