伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

残ったのは意図的

『ヌレエフ』P.166:
帰り道、高地にある別荘に戻るため一群は道をよじ登っていました。ルドルフは夢中だったので、狙いをつけた少年と共に暗闇の中に取り残されてしまったのです。
Meyer-Stabley原本:
Au retour, tandis que le group regagnait la villa perchée et grimpait les centaines de marches, Rudolf resta sur la jetée dans l'idée sans doute de s'attarder dans l'obscurité avec le garçon convoité.
Telperion訳:
帰り道、一行が高い場所にある別荘に戻り、何百歩もよじ登った一方、ルドルフは桟橋にとどまりました。恐らく、欲しくてたまらない若者とともに暗闇の中に長居することを考えたのでしょう。

フランコ・ゼッフィレッリに招待された客たちが夕食をレストランで取った後のことを客の一人が語る。

この証人は、ヌレエフが他の客とともに別荘に帰らなかったのは意図的だと見なしている。次の言葉選びからそのことが分かる。

  • ヌレエフがしたという動詞resterは自動詞「とどまる、残る」であり、「取り残される」ではない。
  • 「欲しい相手と暗闇の中に長居する」(s'attarder dans l'obscurité avec le garçon convoité)は、"dans l'idée de ~"(~という考えで)の後に来る。つまり、長居するのはヌレエフが考えたかもしれないこと。

相手が少年とは限らない

フランス語のgarçonは少年、青年のどちらも指す。新倉真由美はgarçonを「少年」と訳す癖があり、それが正しいかどうかは判別できないことが多い。一般論としては、ヌレエフが『ヌレエフ』から受ける印象ほど未成年好みだったとは限らないと言っておく。

この文に出るgarçonは、一人でゼッフィレッリに招かれていると思われる。もし保護者がついていたら、ヌレエフと二人きりにさせるとも、他の客と別荘に帰らなかったのに気づかないとも思えない。だからこのgarçonは青年だと思う。

2014/2/16
文法説明を少し増やす

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Telperion

Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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